好きな人がいる。
その人とはバイト先で出会った。
おれより15も年上で、結婚もしてる人だ。
短気で気が強くて、最初、おれはその人のことがとても怖くて、あまり関わりたくなかった。
その人はめちゃくちゃ仕事ができてたよりがいのある人で、周りはその人のことを「ねえさん」と呼んでいる。
だからおれも、陰ではそれに倣っている。
ねえさんとおれは体格が似ている。
それに服の趣味が同じだ。
ねえさんはおれに服をくれた。
着なくなった服を、捨てるのも偲びないと思ったらしい。
服をもらって嬉しかったけど、ねえさんにビビってるのは変わらなかった。
そんなこともあったけど、おれとねえさんは特に仲良くなることはなかった。
売り場で会えば挨拶するとか、業務上のことしか話さなかった。
けれども、ある時期を境に、おれとねえさんの距離は急激に縮まった。
おれのバイト先である某ショッピングセンター全体で改装が行われた。
その際に、おれの働く売り場は一時期仮設店舗として動いていた。
なんだか高校時代に文化祭で開いていた模擬店を彷彿とさせるような狭い店舗だった。
そんな、狭い仮設店舗だったからこそだった。
単純に、人と人との身体の距離が近くなるのだ。
2台のレジに並んで入る時は、2人の間に距離はあまりない。
客が来ない時は、なんとなく会話をする。
その期間中、おれはそれまで殆どまともな会話をしたことがなかった従業員とも会話をすることになった。
ねえさんも、その1人だった。
気が強くて短気で怖い人だと思っていたし、それは実際そうなのだけれど、話してみればめちゃくちゃ面白いし、めちゃくちゃ優しいし、少し子供っぽくて可愛らしかった。
それに、ものすごくいい匂いがするのだ。
甘くてクラクラする匂いだ。
おれはそれから少し、ねえさんと喋る時は緊張するようになった。
でも、話す程に心が近づいていくようで嬉しかった。
だんだん心の中にいつもと違う感情が湧き上がってきた。
「まさかな?」と思いつつ、無視してきた感情だった。
決定打は、ねえさんの一言だった。
一つの書類を、何気なく2人で見ていた時だった。
ねえさんがふとおれを見る。
殆ど同じ目線。
甘い匂い。
ねえさんの、やわらかい声。
「ムラカミ、かわいいな」
やられた。
その瞬間おれは、恋に落ちた。
なんて単純なのだと自分でも呆れる。
ねえさんの言葉に深い意味なんてないのはわかってる。
でもおれは、嬉しかったんだ。
死ぬ程嬉しかったんだ。
「かわいい」って言われたことじゃない。
ねえさんがおれを見てくれたことが嬉しかった。
それからあれよあれよといううちに、おれはどんどんねえさんを好きになっていった。
いろいろあって、それからもうすぐ一年がたつ。
だから整理しておきたかった。
こんな眠れない夜だから。
眠れないのは、明日ねえさんに会えるからだ。
