朝8時。目を覚ますと教授はもう部屋を出て行った後だった。
ごそごそと寝心地の良いベッドから這い出てバスルームに向かう。
ドアを開けて、広がる冷気に身体が身震いした。
シャワーのコックを捻って熱い湯を浴びる。
ザーと皮膚を滑りゆく熱い湯、冷から温へと皮膚温度が変化した身体には鳥肌が立っていた。

バスルームを出てタオルで身体を拭う。
鏡の前、あちこちに残る痕、しろい身体。
カラン。
グラスの中の氷が、音を立てて沈んだ。

「全部、知っていました」
貴方が純粋な気持ちから僕らの研究に投資してくれるのではないことも、貴方が僕を利用しただけだったという事も、すべて。
「あなた方の云う楽園が本当にあるのなら、僕はそこへ行きたい。
ここで生きるのは辛い、そして悲しい。だから僕も連れて行って下さい」

あの人のこがねの瞳は僕を、映さない。
あの笑顔が今でも忘れられずに私を苦しめ続けている。
壊れた人形の如く笑う彼はどうして私を狂わせる。
彼ほど美しい人間を私は追贈見たことがない。
どうしようもない独占欲をもって彼を手中にした、私は汚い男だ。
眼球の奥に潜む奈落に気付いたのは何時だったろう。
酷く恐ろしいと感じたのだ、綺麗に笑う空色がいびつな意志と毒々しいライナダルに燃えていた。
恐しいと思うと同時に捕えられたと悟った、やわらかに包み込んだ鮮やかな空色。

僕が貴方を裏切ることはないだろうけれどその逆はどうだろう。
多分貴方は僕を裏切る。
あぁ、あぁ、だからこんなことをしても何の意味も無いのに。
貴方の未来に於いて貴方が僕にすることを止めることは出来ないのに。
僕は馬鹿だ。
僕はどうしようもない愚か者だ。
分かっていても終われないこの愚行を、どうか許して。

脱がされた白いシャツに、貴方の残り香。
「アルフォンス君、今夜私の部屋に来たまえ」
「…はい」
こうして夜あの部屋に呼ばれるのは初めてではない。
もう何度も繰り返されている、常。
そのたびに僕は無表情に頷いて、相手が満足そうに笑うのを見る。
「じゃあ、いつもの時間に」

扉を開くと腕を引かれて壁に強く押し付けられ、深く深く、口付けられる。
「 …んっ、は…」
息苦しい、窒息しそうだ、離して。
どちらのものとも分からない唾液が、口の端から垂れた。
衣服内に差し込まれた手が、蠢いて僕を堕とす。
上がる息に、今日は感度がいいと至近距離で囁かれる声がやけに耳についた。
「感謝したまえよ、アルフォンス君。君は私のおかげで、最高の条件で最高の研究ができるのだから」

真っ黒な蝶々、光の中で死んでいた。

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051005
何か野心を讃えた瞳をした青年は唇を歪めてわらった。
「良いですよ教授。良いですよ、それで」
首に腕を回して唇に触れた。
男をベッドに倒してその耳元で囁く。
「僕の出来得る限り、貴方に奉仕させてもらいますよ」
青年の空のような瞳が、狂気に溺れた。

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051005