💜❤️妄想/BL小説
(これまでのお話)
(12)
side ジュン
驚いた。
ショウは、ほとんど変わっていない。
余命宣告受けたと聞いたから、痩せ細った姿かと思っていたのに。
パジャマにスリッパ、手にはコンビニの袋。
顔色は、流石に良くはないが、健康そうなふっくらした頬。
「ショウ……大丈夫なの?」
「ん? ああ、大丈夫、大丈夫」
ペタペタ歩く後ろ姿に、ついていく俺。
ベッドにコンビニの袋の中身を広げ始めた。
雑誌2冊、新聞、文庫本、ジュースに、菓子パン。
その広げた商品の横に、ショウは座る。
「よいしょ。あ、ジュンも座ってよ。この部屋俺一人なんだよね」
「うん……」
(もしかして、余命宣告って嘘なのかな?)
俺が混乱してると、ショウが笑う。
「驚いた? 大丈夫、気にすんな。余命宣告なんて、よくある事だよ」
「はあ? ないだろ」
ショウは、新聞を広げながら言う。
「2024年の日本の死亡者数、過去最多だって。161万8千人。一日で……4400人以上死んでるんだ。余命宣告は幸運な方じゃない? 色々用意が間に合うじゃん」
あっさり言う彼に、驚いて言ってしまった。
「他の奴は、どうでも良いんだよ! 俺は、俺はショウが……」
思わず大きな声で言いながら、泣きそうになった。
ショウは、困った顔で俺の手を、優しく握る。
「それはさ、俺もだよ。……ずっとお前が心配だった。この20年……ずーっと」
ショウの瞳が、濡れている。
俺は、バカだ。
ずっと、勝手に怒ってばかりいた。
「ショウ……ごめん」
「謝んないでよ。俺がさ……みんな悪いんだから」
そう言って、立ち上がると俺を抱きしめてくれた。
そっと抱きしめ返す。
見た目より、ショウの体は昔から細かった。
今は、さらに華奢に感じる。
「俺、背が伸びたのかな……ショウが小さく感じる」
「やめろよ、そんな変わんないよ」
笑うショウを見て、思った。
昔、別れる前のショウは、あまり笑っていなかった。
ショウは、俺の為にあの日、遠くに行ったんだと改めて思った。
彼が兄弟でいたいって、それが願いなら、俺は弟にならなくちゃいけない。
俺は、できるだけ笑おうと思う。
彼の記憶の中の自分は、いつも笑ってる方がいい。
ニコニコしてショウが、俺に菓子パンを渡す。
「病院の飯、不味くないんだけど味気なくってさ。内緒でこのパン買ったんだ。半分こしよ?」
20年前と変わらない。
いつだって、可愛くて優しい兄だ。
「うん、ありがとう」
「半分で、ごめんな? ジュンが来るなら色々買えば良かったな」
「いいよ、逆だろ? 俺が見舞いで持って来るものじゃん」
「そっか、なるほど」
そう言って、二人で笑い合った。
俺が、不器用な彼に変わってパンを半分にする。
二人で頬張った菓子パン。
この20年で食べたどんなものより、一番美味かった。
雲に隠れた月が、そっと顔を出したように、俺の心は明るくなった。
(続く)
この回のショウくんが好きです♡
自分が病人なのに、パンをあげようとする可愛らしさや優しさ。
で、やっぱり弟らしく手ぶらで来るジュン君。笑(本物の方なら色々持って来そう)