ビットコインの価格形成は
いまや骨董品の値付けと似ている


――ビットコインの価値は大幅に変動します。
貨幣の3条件からいうと、
これでは価値尺度としての機能を果たせませんよね?


岩村教授:

 そうですね。ビットコインの最大の問題は、
その価格の著しい不安定性です。
しかも今回の事件を反映してか、
取引所間での価格のギャップも非常に大きいようです。
こんな不安定な価格がビットコインの限界費用を
反映したものとなっているかといえば、
それはなっていないと思います。
直感的に言うといくら何でも価格が高過ぎる、
たかがビットコインとしての条件を満たす数字列を
1個だけ発見するための費用が、
何百ドルもかかるはずはないという気がするでしょう。
しかし、現実はそうではなさそうです。

 ビットコインの特色は、条件を満たすコインつまり数字列が、
最大で2100万個ぐらいで打ち止めになるように
アルゴリズムが仕組んであるところにあるのですが、
現在までで半分以上、
つまり1000万個以上のコインは発見されてしまっているようです。

 ビットコインの世界では、
コインとしての条件を満たす数字列を発見することを、
膨大な数字の山に交じっている「お宝」の数字列を発見する
という意味で、地下に埋まっている金鉱石を発見すること
になぞらえて「発掘」とか「採掘」と言うのですが、
ここで大事なことは、ビットコインの仕組みでは
コインの発掘が進めば進むほど
新しいコインを掘り出すのが困難になり、
コイン1個の発掘のために
膨大なコンピュータ資源と電気代が必要になるということです。
しかもその必要になり方が急激に大きくなる、
という極端な仕掛けになっているところにあります。

 現実の金山や銀山でも金や銀の採掘が進むと、
新しい金銀の発見が困難になり、鉱山として枯渇する
という道筋を辿るわけですが、ビットコインという金山は、
その枯渇の過程が急速に進むように仕組まれているのですね。
それが、ビットコインの創始者とされる
ナカモト氏の無意識によるものなのか、
それとも意識的に仕組まれたものなのかどうかは、
何しろ本人が「謎の人物」なので分かりません。

 問題は、こうした資源の枯渇、
コインの掘り尽くしが予想できるようになった状況で、
その資源にどんな価格がつくかです。
これはたとえば石油のような天然資源を
取り上げて考えると分かりやすいでしょう。
石油は私たちにとって最も重要なエネルギー資源ですが、
もし石油に代替エネルギー資源がないとすれば、
その枯渇が予想できた時点で石油価格は決まらなくなります。
もう少し正確に言うと、
少なくとも限界費用価格という文脈では決まらなくなります。
石油の価格は骨董品のようなものになってしまって、
石油がどうしても欲しいという人の間では、
とんでもない価格で取引される一方で、
他の人々は、先の見えている資源など…
という石油にまったく関心を示さなくなってしまうわけです。

さて、問題はビットコインの価格です。
ビットコインの価格は急激に上がったり下がったりしているし、
取引所間の価格差も大きいのですが、
その背景として、ビットコインは人々の注目を集めるようになって
1、2年もしないうちに、その価格という観点からは早くも骨董品に
なりかけているということかなという気もしています。
つまり、ビットコインが書画骨董の類と同じ感覚で取引されている
という状況が生じているのかもしれない、
そうだとすると、これはかなり危ういぞと私は思っています。

 でも、誤解のないように強く言っておきたいのですが、
それはビットコインという特定のクリプトカレンシーの仕掛けに
重大な問題があるからです。ですから、このことは、
ビットコインを含む暗号技術応用型通貨
つまりクリプトカレンシーの一般的な問題点ではないのですね。
ビットコインのような通貨つまりクリプトカレンシーは非常にたくさんある。
何らかの取引所のようなものがあって値段がついているものだけで、
何と100以上もあるのですが、そうしたビットコインの後を追って登場した
ジェネリック医薬品のような後発通貨がたくさんある以上、
そうした通貨たちは互いに競争して良さを
競い合って行くのではないかと思うのです。

 ところで、通貨間競争という言葉を使うとすれば、何と言っても、
フリードリッヒ・ハイエクという名を思い出さずにはいられません。
ハイエクは、「多様な通貨が発行され、
そうした通貨発行主体同士が競い合えば、
それで通貨価値が維持されるはずだ」という考え方、
いわゆる通貨間自由競争を唱えた経済学者としてご存じの方も多いでしょう。
そのハイエク的な視点から見ると、
いかに自国通貨価値を棄損しインフレを生じさせるかを話し合い
協調しているように見える現在の国際通貨体制はどう映るでしょうか。
あまり良い姿とは思えませんよね。
ですから、そうした時代に、せめてクリプトカレンシーの世界だけでも、
ハイエク的な通貨間競争が生じるのだとしたら、
それは歓迎すべきことなのではないでしょうか。


引用文献:Diamond Online


どうやら暗号通貨そのものではなく
「ビットコイン」に独自の問題点があるようです。

他にも100以上ある暗号通貨・仮想通貨に、今後
ハイエクの唱える通貨間競争が生じてくるのか
気になるところですね。