バタフライ・スミスは名うての殺し屋だったが、ある時無情のかなしみを悟り、銃を捨てたのだった。

なぜ銃を捨てたのか、それは自分自身の孤独のせいだった。

それまでの彼はお金のために、打ち続けた。

打つこと。ただ、打って人を殺し続けるだけの生活に満足していたのだった。

報償金はたんまりとあったから、生活の不自由は何一つなく、ただ、隠れ家に潜みながら、隠れながらの生活は不自由ではあったが、あるときはスーツを着て銀行員になりすまして、ウイスキーを飲んだり、またあるときは農夫の格好をして日雇い人夫の間に混じって食事をしたりしたのだった。
乞食の格好をしたこともあって、その時は教会の食事に恵まれたこともあった。

そんな、誰ともわからないような、それでいて不足ない生活を送ってはいた。


ある日のこと、バタフライ・スミスはいつものようにターゲットを尾行して、背部から胸を狙って引き金を引いた。


狙いは的中し、倒れた身体を、本当に息がないかどうかを確認するために、仰向けになっている身体を力いっぱいひっくり返したのだった。

それから、なにとはなしに脈を確認するときに死者の顔を見る。

すると、その顔があまりにも、自分自身に似ていることに驚いたのだった。

追跡しているあいだは気がつかなかった。指示書に貼られている写真とも違う顔で、どうやらターゲットを間違えてしまったらしい。

それはいままでにないことだった。

そのうえ、自分自身にそっくりの顔をした――そっくりなんてものではなかった――まるで自分自身を殺してしまったのかと思うまでに瓜二つの顔だった。

バタフライ・スミスは恐怖に戦いた。そしてこれもいままでにないことだったが、その死体を引摺り納屋に隠したのだった。

それから彼は墓所にやってくる。遠くくらいなかで眺めると、たくさんの十字架が針山のようにみえた。

月は満月で、一人墓所の片隅に穴を堀りはじめる。スコップは湿った土を引き裂くと、火でマシュマロを炙るような音が響いているようにバタフライ・スミスには思えた。

掘り終えて、納屋から死体を引摺り、穴にうめる。棺はなかった。

埋め終わると、まるで自分自身に祈りを捧げるように、だけど簡単に祈りを捧げた。

その日からバタフライ・スミスは銃を捨てたのだった。

なぜ捨てたのかはバタフライ・スミス自身にもよくはわからなかった。

ただ、その顔を視たときに、恐ろしいまでの孤独感にさいなまれたのだった。

――彼がもし、本当にわたし自身だったなら、いや、わたしではない。なぜならわたしはここにいるのだから。

けれど、彼にはその死者が自分自身に思えてならなかった。そう、もしかしたら、未来の彼の姿かもしれなかった。

銃を捨てた彼のその後は、ある人の話によれば銀行員になったとも云われていたり、またある人の話によれば聖書の伝導者になったとも、いやいや、語学の先生になったんだよ、と云うような話もあったが、本当のところはよくわからないままだった。