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■エヴァンゲリオンに乗りたかった子供たち

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参院選の投票率が低いのはおなじみですが
年齢が下がるにつれ投票率が下がるのもおなじみです
特に20代30代の投票率の下落は著しく、各党が若者のための政策を重視しない点がよーくわかります

では何故若者は投票しなくなったのか
その大きな原因として、若者の「自身の存在の希薄化」が上げられるとされています

近年の若者には、「現実的」であるとされています
これは「希望する就職先ランキング」で公務員がトップを飾る等
「野球選手」といったような大きな夢を持つ若者が少なくなってきていることにもあるでしょうし
起業率の低下にも表されているのかもしれません
また、消費動向から近年の若者が消費を行わず
漠然とした将来への不安から「貯蓄」に精を出していることも「現実的」な若者を代表する傾向かもしれません

そういった「現実的な若者」は、自身を過小評価しがちであるとされています
勝負事、競争で買っても「勝ったのはまぐれ」であり、負けたときは「自分のせい」として頑なに「自分は小さい人間なんだ」と可能性を過小評価する傾向にあるそうです

一昔前の若者は誰しもが「車」に大きなステータスを感じていました
人よりも良い車に乗ることで、自分を大きく見せようと考えていました
投資家である「邱 永漢」は、サラリーマンの月給が1万円強程度だった時代に、それでも100万円もする自動車を買おうとモーターショーへ通う若者を見て
現代の自動車産業の隆盛を予見したと語っています

このように、以前の若者は大金を積んでも自分を過大評価させたいという欲求があったのです

しかし、そういった熱狂はバブル崩壊からの「失われた10年」の間に、すっかり失われてしまいました
就職氷河期や大規模なリストラ、雇用不安、低賃金労働の常態化により「頑張っても報われない社会」が形成された結果
「どうせ頑張っても、何にも変わらないんだ」という空気が蔓延することになりました
厳しい社会を潜り抜けても、結局はリストラにあったり
頑張って勉強して良い大学をでても、就職活動で躓けば全てが台無しといった状況の中で
若者はいわば常態的な「諦め」を受け入れるしかなくなったのです

そういった中で自身が占める社会での位置が相対的に下落し
自身に十分な価値を見出せる若者が少なくなってきたのではないのでしょうか
それが「どうせ自分が投票したところで」となり、「投票率の下落」に繋がったのではないかと考えられます

しかしその一方で、自身を認められたいという渇望感が増していることも事実です
自分自身が自身を低く見積もる一方で、他人からは大きく認められたいという
一見相反する現状を抱えているのが現代の若者であると考えられます
それはSMAPの「世界に一つだけの花」において「ナンバーワンじゃなくてもいい 元々特別なオンリーワン」という歌詞が非常に脚光をあびたとき
「自身が努力して掴み取るナンバーワン」ではなく「誰かから与えられるオンリーワン」が若者において相対的に重要な位置を示すことになりました

一昔前に「若者は何故3年で辞めるのか?」というテーマが話題となりました
その原因の一つとして「自分には天職がある」と考え、それを求めるために辞めていくことがあげられるそうです
現代の若者は「天職」という「自分にとってオンリーワン」の職業があるということを盲目的に信じ
その天職に就ければ(与えられれば)、全ては上手くいくという何ら保障されているものではない幻想に駆り立てられています
(これは変態的な就職活動に原因の一つがあるんじゃないのかな)

努力しても報われない世界の中で、自分に価値を見出せない、希薄化した若者たちにとって
栄光であったり、成功であるものは
もはや自分で掴みに行くものではなく、誰かから与えられるものと化しつつあるのです

それを表す代表的な作品として「新世紀エヴァンゲリオン」があげられます

主人公の碇シンジは、突然父である碇シンジから呼び出され
人造人間エヴァンゲリオンにのって世界を救えと命ぜられます
この碇シンジこそ、現代の若者であり、希望の星なのです

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碇シンジには特別なスキルはありません 一般的な男子中学生です
また弱気であり、嫌なことには「無理だ」といって逃げ出してしまいます
そんな普通の(もしかしたら普通以下)の主人公でも、エヴァンゲリオンに乗れば世界を救う英雄です

お分かりの様に、碇シンジとは現代の若者であり
エヴァンゲリオンのパイロットは若者にとっての天職なのです
自分もいつかエヴァンゲリオンのパイロットへの召集状が来るのではないのかと夢を見て
来るかどうかも分からない手紙を待つ日々を送り
最終的に「こんなはずじゃなかったのに」と嘆くことになるのです


精神科医で知られる香山リカは、著書「しがみつかない生き方」において
「パンのために働いている」ことで、働く意味は十分であると述べています
本来仕事というものは天職というものは無く、つまらないものです
しかし近年の若者には、「天職」につくことが「成功への道」を開く絶対的な要素として確立しつつあるのです


現代の若者は「自己の過小評価」と「他人からの評価の渇望」という相反する感情を抱えている
「努力をしても報われない社会」において、唯一自分が救われる方法は「与えられたオンリーワン」であると信じている
しかし、本当にオンリーワンなんていうものはあるのだろうか?
そして、それは本当に与えられるものなのだろうか?
オンリーワンとは、自らの行動の蓄積の結果として生まれる産物なのではないのだろうか?

エヴァンゲリオンに乗りたかった子供たちのもとに、召集令状が届くことは今後あるのだろうか


※参考文献
香山リカ(2009) 『しがみつかない生き方』 幻冬舎(幻冬舎新書)
香山リカ(2006) 『貧乏クジ世代』 PHP総研(PHP新書)
邱 永漢(2005)『損をして覚える株式投資』 PHP総研(PHP新書)