ゆう@子育てパパ

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「きかんしゃトーマス」、茶畑を走る-。幼児などに絶大な人気を誇る英国製のテレビ番組「きかんしゃトーマス」の主人公に扮した蒸気機関車(SL)の運行が、大井川鉄道(静岡県島田市)で始まって1カ月余り。その姿を一目見ようと、全国各地から家族連れなどが小さなローカル線に殺到し、鉄道マニアも巻き込んで大きな話題を集めている。トーマス号の人気の秘密を追った。(広池慶一)
■小さなローカル線にファンが殺到
「ポッポーッ!」-。午前10時半、煙突から白い蒸気が勢いよく上がり、汽笛が新金谷駅(同市)に響き渡った。いつもは閑散としているホームに詰めかけた親子連れなど数百人から、一斉に大きな歓声があがる。
「本物そっくり!」「すごーい!」。鮮やかな青色に塗装されたトーマス号が、子供たちの熱い視線を浴びながらゆっくり力強く動き始めた。
「見込みの倍近い人気です」と驚くのは、大井川鉄道の山本豊福(とよふく)広報課長(49)。「こんな人数は経験したことがないし、こんなに大勢の子供が来るのも信じられない。みんなもう、てんやわんやですよ」と語る。
トーマス号に扮したのは、同社が所有する「C11形227号機」。車体を青色に塗り替え、ヘッドライトの位置も移動。前面には、目玉がぐりぐりと動くトーマスの顔を設置した。また、客車もテレビ番組と同じくオレンジ色に塗り替えている。
7月12日に運行を開始。10月12日までの主に週末の50日間、大井川本線の新金谷駅-千頭(せんず)駅(約37キロ)を1日1往復する。予約はすべて満席の状態だ。
■トーマスずくし、“鉄オタ”も納得
新金谷駅を出発してしばらくすると、車窓には茶畑が広がり、反対側には雄大な大井川が流れる。車内にはもちろんエアコンなどなく、開放した窓から入る風を受けながら、渓谷をゆっくりと進んでいく。
7両編成の客車内は、天井の三角旗や座席のカバーシートなど、あちこちにトーマスの仲間たちの絵柄がちりばめられている。旅の途中では、トーマスの声でアナウンスが流れるなど、乗客はトーマスの世界にどっぷりとつかることができる。
静岡市葵区の小学1年、花井颯希(たつき)くん(7)は、「トーマスの声が聞こえた! 最高に楽しい」と大喜び。母親の三矢佳(さやか)さんも、「この子が喜んでくれてよかった。鉄道の旅っていいものですね」と楽しんでいる様子だ。
沿線では、トーマス号や乗客に手を振る地元住民や、熱心に撮影する人の姿が多く、乗る側も見る側も興奮気味だ。
山梨県甲州市から孫ら7人で乗車した会社員、山本紀恭(かずゆき)さん(64)は、「茶畑や大井川ののどかな風景がとてもいいですね。沿線の人たちが一生懸命手を振ってくれて感動しました」と話した。
終点の千頭駅では、トーマスの映画作品に登場する日本生まれの機関車「ヒロ」とトーマスが並ぶ。同社保有の9600形蒸気機関車を改造したもの。映画の中でヒロとトーマスが日本での再会を約束するシーンがあり、2両が並ぶ姿は、トーマスファンには特別な意味を持つのだという。
トーマス号は子供たちだけでなく、マニアにも好評で、鉄道雑誌からの取材も多い。
鉄道で1人旅をするのが趣味という、さいたま市の会社員、佐藤匡樹(まさき)さん(32)は、「トーマスの世界からそのまま飛び出したようなクオリティ。ヒロまでしゃべるとは驚きました」と舌を巻いていた。
■起死回生の企画が現実に
なぜ小さなローカル鉄道にトーマスはやってきたのだろうか。
大井川鉄道本線の利用客数は昭和42年度の345万人をピークに、昨年度は57万5千人まで落ち込んだ。経営状況は厳しく、今春のダイヤ改正では、運行本数をほぼ半減させる事態となった。
同社では昭和51年、利用客減に歯止めをかけようと、いったん廃止したSLを金谷駅-千頭駅間で復活。しかし、業績は思ったようには回復しなかった。
「いっそのこと、本物のトーマス号を走らせてはどうか」。25年春ごろから、社内にそんな声が出始めた。ちょうどその頃、同社と関係のある京阪電気鉄道(大阪市中央区)が、トーマスのラッピング電車を走行。同社の意向を知ってトーマスの版権を持つソニー・クリエイティブプロダクツ(SCP、東京都千代田区)に引き合わせたところ、SCPも実物のトーマス号を走らせたいとの希望を持っていたため、一気に話が進んだ。
大井川鉄道によると、トーマス号は10月まで満席となっているが、運行日の1~2週間前にキャンセルが出るケースもあり、乗車できるチャンスはまだあるという。
山本課長は「トーマスは本当に偉大。ずっと寂しい思いをしてきたので、これだけ人が来てくれるのはうれしい」と話し、しみじみと喜びをかみしめている。
「トーマスに乗ることで、大井川鉄道の素顔である本物のSLの魅力を知るきっかけになってほしい」
子供たちの笑顔とローカル鉄道の夢を乗せ、トーマス号はきょうも野山を駆け抜ける。
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