知恵や技術(ソフトウエアー)
を大事にする日本の文化ってやっぱり いいなぁ~。    (#^.^#)

ゆう@子育てパパ


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 今月、伊勢神宮が20年に一度、内宮本殿を真新しいものにすっかり建て替え、ご祭神が引っ越す儀式である「式年遷宮」が執り行われました。7世紀、持統天皇の時代に始まって、本年で62回目を迎える制度で、戦国時代の一時を除き、ほぼ1300年間、連続してきた習わしです。



 これは、きわめて大がかりな行事です。木曾にある皇室の御料林から木を運び伊勢で製材する一方で、以前の本殿はすっかり分解され、その木材は他の神社の資材として全国各地へ下げ渡されるなど、多くの時間(一部10年も)と経費(一説に数百億円)を要するといわれます。現代人的な発想では、大いなる無駄としか映らないかもしれません。



 単に木造建築物の老朽化を防ぐためだけの理由なら、20年は短かすぎる気もします。そこには、古代日本人の“はかない寿命”対応策も加味した“文化伝承の崇高な精神”が秘められていたと考えるのが妥当ではないでしょうか。



 伊勢神宮の独自な建築様式を一分の違いなく後世に伝えるためには、当然そのソフトウエアーを受け継ぐ人を継続的に育てなければなりません。なおかつ、現実の遷宮に従事した経験の持ち主が次の遷宮のリーダーシップを執ることも不可避的となってくるのです。当時の寿命からすれば、壮年期の20代に遷宮を経験した人物は次回には40代として、後進を育成し見守ることができるというわけだったのです。諸外国の建築の基本的発想法は、頑丈な石や岩を多用して後世に残そうというものですが、ピラミッドであれ、パルテノン神殿、万里の長城であれ、いずれも崩れ落ち、その技術にも多くの謎が秘められており、現代技術での完全なる再生は不可能だそうです。



 この違いは明らかで、海外の古代国家が、物(ハードウエアー)だけを残そうとしたのに対し、古代日本人は、知恵や技術(ソフトウエアー)をそのまま伝承せんとする独創的な精神に支えられた建築であり、儀式であったと言えるのです。飛鳥人は、文化を単に塩漬けにして残そうといった手法ではなく、“人から人へと伝えてゆく知恵や方法を重視する”回帰現象、まさに“温故知新”の文化の特性こそ、伊勢神宮に流れる精神であろうかと思われます。



 ところで、伊勢の地は地理的に神話の舞台や政治の中心から外れた場所に見えますが、実際は大和地方から宮川伝いに下れば自然にこの地へ出られるし、伊勢から船に乗れば、簡単に東国三河に行けるという地理的な有利さを秘めていたようです。つまり伊勢は、畿内から東日本へ出る門戸であり、航海の出口だったといえ、そこに神様を祀っておけば、東日本と近畿・大和の中間点として機能し、大和朝廷の安全性も高まった-というのが真相ではなかったでしょうか。



 伊勢神宮は皇室の祖先神である天照大御神を祀っておりますが、神話によれば日本武尊が熊襲征伐で西へ向かうときも、その後の東国遠征のときも、まず伊勢神宮へ赴いております。当時の東国は農耕文化の普及も遅く、ここは戦略的・軍事的拠点でもあったと考えられます。言わずもがな、天照大神は「農業生産神」であり、日本武尊の説話こそ、農業技術の伝習や農地開墾による治安平定は大和朝廷の勢力拡張物語であったことと符合します。



 伊勢神宮は、他にも古式を千三百年来伝承しており、神様に備える供物を今も自給自足で賄っているそうです。米や野菜は当然としても、塩や海産物まで自前で生産・収穫しているのです。伊勢神宮御用の浜もあって、そこでアワビやタイを漁しているそうです。アワビの干物も天日干しで、こうした生産加工活動は、神宮の神官たちが携わり、まさに「人間の暮らし方」を、そのまま後世へ伝えてゆくことを重視してきたことが伺えます。



 特に「塩」は、海水を塩田に引いてきて天日に当てて乾燥させるという古代からの製塩法であることから、ニガリ(塩化マグネシウム)などの豊富なミネラルが含まれており、料理に使うと味に深みや広がりがでて、真に美味だと言われています。なんでも京料理の老舗が、伝統の味を確保するため、この種の塩を使用しており、今やフランスの有名レストランシェフを含む世界の料理人たちからも、注目の的になっているようです(ちなみに、塩の専売制度時代にあっても、伊勢神宮だけは特例として天然塩の製造が認められていたのだそうです)。



 今でこそ、美味、かつ健康対策上、高級スーパーやデパートで天然塩が復権を遂げ、多種多様なブランドものが売られるようになってきましたが、それまでは長い間、西欧的衛生観念から「天然塩は不純物を含み衛生的でない、非科学的商品である」などと不当な扱い方をされ、いわゆる大量生産による精製食塩(純粋に近い塩化ナトリウムで、マグネシウムなどの有機ミネラルは含まれない)が普及していました。



 それが今では「人工精製食塩」こそ、健康に害毒を及ぼすとして、減塩運動が叫ばれるようになってきました。従来は不純物とされ、人工の精製食塩では除去されてきた「マグネシウムなどの有機(必須)ミネラル」を摂取できないと、まずはカルシウム不足を来たし骨・歯・筋肉、神経などに支障が出るほか、ストレス対応力が減衰し、酵素の働きを妨害し、血液循環を悪化させるなど、現代病の一要因となっていたのです。



 いずれにせよ、伊勢神宮は日本文化の源泉であるともいえそうですし、そうした文化が現代でも生きていることに、驚きと畏敬の念を覚えます。稲作・漁労文化から、暮らしの知恵、建築工匠、祭儀の伝統に至るまで、何と崇高で独創的な継承文化でありましょうか。当に世界遺産の一つとしても異彩を放ち続けてきた回帰現象であると断言できそうです。(上田和男)