自分は バカなので 大丈夫。。 (~_~;)

ゆう@子育てパパ


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窪田順生の時事日想:

 頭の回転も速いし、ハタから見ると「優秀」なのに、とんでもなくバカな真似をする、という人がたまにいる。

【拡大画像、ほか】

 最近でいえば、復興庁の元参事官・水野靖久さんなんかがいい例だろう。



 ちょっと前に世間を騒がしたが、Twitter上で「左翼のクソども」などと市民団体や国会議員を中傷し、停職30日を受けた総務省のキャリア官僚である。



 官僚といえども人間だ。口汚く毒づきたい時もある。そんなに驚くような話ではないのだが、ひとつ不思議なことがある。



 水野さんが「左翼のクソども」と呼んだ市民活動家のみなさんは、ネットで記事や映像を配信したり、Twitterでデモの動員をかける。つまり、Webというのは彼らの「主戦場」でもある。



 そんな場所でなぜ呑気にストレス発散をしていたのか。市民団体と折衝していたというのだから、己が「標的」になっていることも分かっていたはずだ。



 頭脳明晰、しかも総務省のキャリアが今さらSNSの怖さが分かりませんでした、というのもなんともしっくりこなくないか。



●「学歴エリート」がうまく機能しない



 そんなモヤモヤの答えが、先週発売された『「学歴エリート」は暴走する 「東大話法」が蝕む日本人の魂』(講談社α新書)のなかにある。



 高級官僚に代表されるような「学歴エリート」がなぜうまく機能しないのか。著者の安富歩・東京大学教授は太平洋戦争や高度経済成長期、バブル崩壊まで遡って、その原因をさまざまな角度から考察していて、私も少し手伝わせていただいた。



 安富教授といえば、原発事故における「御用学者」と呼ばれる方たちが、そろいもそろって自らの責任をウヤムヤにするような独特な言い回しをすることに着目し、それらを「東大話法」と名付けたことで知られており、この欺瞞(ぎまん)的話法が「原子力ムラ」だけではなく日本社会のありとあらゆるところに浸透していることを研究している。



 そんな安富教授によると、「学歴エリート」になるためには、まず幼いころから著しいプレッシャーをバネにしてくる日もくる日も「高速事務処理能力」を磨かねばならないという。



 確かに、彼らが子どものころからパスしてきた「試験」というのは「情報処理をいかに正確に速くできるかを競うゲーム」だ。これが習慣として骨の髄まで染み付いているというのは頷(うなず)ける。ただ、「高速事務処理能力」だけを獲得すればいいというものでもないらしい。



 しかし、それだけでは東大には合格しないようです。それとともに必要になるのが、抜群のバランス感覚です。



 というのも、入試では単に情報処理するだけではなく、



「相手がどのような答えを求めているか」



を察知する能力が不可欠です。「洞察力」と言えば聞こえはいいですが、要するに「空気を読む」とか「相手の顔色をうかがう」というような表現の方が実態に近いと思います。(33~34ページ)



●気のきく事務屋



 つまり、「学歴エリート」というのは、最高の事務処理能力をもちながら、「相手の顔色をうかがう」ことにも長けている「気のきく事務屋」だというのだ。



 これは非常に納得がいく。「学歴エリート」の最高峰である「事務次官」という人たちが、政治家を手の平の上でコロコロと転がし、天下った後には複数の財団やら会社の役員になっているのはご存じのとおりだろう。彼らは事務屋として優れているだけではなく、人脈もあるし、それらをフル活用するバランス感覚もある。分かりやすく言えば、「世渡り上手」なのだ。



 いや、待て。だったら、「学歴エリート」の水野さんも、あんな「暴言」など吐かないだろと思うかもしれないが、そうではない。



 水野さんは抜群に「空気を読んでいる」。なぜなら「左翼のクソども」という発言も、ちゃんと「相手」の顔色をうかがっているからだ。誰の?



 それは、ネット世論だ。



 ネットを見渡せば、「左翼は死ね」「ブサヨク」なんて言葉が溢れ返っており、人気絶頂の首相も「左翼」をコケにするぐらいだ。左翼は人にあらず。水野さんが読んだのはこっちの「空気」だというわけだ。



 頭脳明晰であるはずの「学歴エリート」たちが自分の頭で判断をせずに「空気」に踊らされる――。その恐ろしさを安富教授は先ほどの本でつぶさに考察している。



 満州事変、太平洋戦争……どんなに気がきいてもしょせんは事務屋だ。彼らが「リーダー」とかにまつりあげられると、だいたい日本は暴走する。



 記憶に新しいところで言えば、やはり「バブル」だろう。



 日本長期信用銀行のように「全体でどれだけ不良債権があるのか誰も知らない」という異常な事態をひき起こしたのは、会長や頭取という幹部がすべて「気のきく事務屋」だったので、各々が各々の顔色をうかがって、経営が分断されていたからだ。



 『プレジデント2011年10月17日号 大学と出世・就職』によると、1985年、上場企業の「東大出身」の役員は4591人もいた。ところが2011年になると、945人と激減。右肩あがりの経済成長下では、「気のきく事務屋」の居場所もあったが、厳しい時代のリーダーにはふさわしくない。当たり前っちゃあ当たり前の話だが、ただひとつバブル前と変わることもなく、「気のきく事務屋」が幅をきかせている世界がある。官僚の世界だ。



 政治家はダメでも官僚が優秀だから日本は安泰だ、みたいなことを言う人がいるが、安富教授の本を読むと、実は太平洋戦争もバブルでも、「学歴エリート」たちがそれを食い止めるどころか、むしろ中心的な役割を果たしていたことがよく分かる。だからこそ、高級官僚には、水野さん騒動で萎縮することなく、じゃんじゃんTwitterやブログを利用していただきたい。



 みなさんがいかにバカ……いや、「暴走していないのか」を我々が知る重要な手段なのだから。



[窪田順生,Business Media 誠]