見てみたいな。。   (#^.^#)   ゆう@子育てパパ


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 一見すると、新体操とダンスは、共通点が多いように映る。 ところが、本多によると「全く逆なんです」というのだ。



 「新体操って、きっちりと決められたことを踊るんです。何をやるにも、ぴしっ、ぴしっと…。ダンスのように、緩く、楽しく踊る。そういうことができなかったんです」



 新体操の動きはかかとを上げることで、体を上に引き上げるのだ。だから、常に背筋がピンと伸びている。ところが、ダンスだと「みぞおちを落として、音を取るんです」。重心の取り方ですら、完全に真逆だった。



 リズムの取り方も新体操は「ワン、ツー、スリー、フォー」。ところが、ダンスだと「ワン、アンド、ツー、アンド、スリー」…。



 その“アンド”の部分。つまり、微妙な間で取るカウントがあるのだという。手足を隅々まできちんと伸ばす新体操、反対にぶらぶらさせるダンス。



 「体に染みついていて…。意識では逆と分かっても、体が動かなかったんです」



 本多のたどってきた道のりを考えれば、それも当然かもしれない。



 「あ、私、場違いだ…って思ったんです。なんか、競技より、ちょっと緩め。でも、周りはそれに慣れている。『リズム取って』っていわれても『えーっ?』って感じで…。唯一できたのは、ジャンプだとか、足を高く上げることだとか、新体操を生かしたものしかできなかった。知らない世界過ぎて…。戸惑いだけでした」



 それでも、1次、2次の実技テストを突破し、本多は最終面接へ進んだ。しかし、選ぶ側も迷っていたという。



 「運動神経は抜群でした。体も柔らかいですしね。当然ですよね。でも、じゃあ、ダンスとなるとどうだろうと…。結構、球団の中でも、もめましたね」



 中日球団のファンサービス部課長を務め、チアドラの創設期からの経緯も知り尽くす石黒哲男は、その時の球団側の逡巡(しゅんじゅん)ぶりを、そう振り返ってくれた。そのとき、球団のスタッフたちは、改めて“チアドラのコンセプト”に立ち戻ったのだという。



 公開されているチアドラのプロフィルには、本名に加え、出身地まできちんと明記されている。他球団では愛称が公表されている程度なのは、プライバシーやセキュリティーの問題ゆえのことだ。チアドラでも、人気のあるメンバーには野球選手顔負けのファンもつく。本多にも、週に何十通単位でファンレターが球団に届き、スタンドには「里香」の応援のうちわを持った熱烈ファンもいるほどだ。つまり“万が一”のトラブルを引き起こさないよう、厳しい規制をかけてしまうのだ。



 しかし、チアドラに関しての球団の方針は明確だった。



 「女の子が、ドラゴンズの選手になるのは無理。でも、チアドラになれば、ドラゴンズの一員になれる。ダンスをやれば、その道筋がある。グラウンドに立てる。われわれは地域のチームなんです。町の女の子が、同級生が、自分の娘が、近所の女の子がチアドラになる。それで、みんながドラゴンズに興味を持ってくれる。ドームに楽しみに来てくれるんです。あ、あの子、同級生だ。そう思ってもらえるのが大事なことなんです」



 石黒の説明に、異論を挟む余地はないだろう。だからこそ、本多の存在がクローズアップされたのだ。ダンスの経験はなくとも、アスリートとして鍛え上げた輝きと美しさを兼ね備えていた、愛知で生まれ育った、原石のような女の子がいる。



 「こういう子を、獲ろう」-。



 それが、地域密着を目指す、名古屋の球団としての決断だった。



 身長158センチ。しかし、その割に本多は大きく見える。その手足の長さは、エンターテインメントの世界では、大きな武器になる。まず、見栄えがするのだ。しかも、新体操の日本のトップレベルで戦ってきたのだ。足の上がり方、体の柔軟性、身のこなし。そのひとつひとつが、周囲の目を引くキレのある動きだった。



 しかも、本多には新たな世界の“水”が、ピタリと合った。



 新体操のときには「上の人に話しかけられなかった。笑うな…と。ピリピリしていたんです」。しかし、体育会系の厳しさと、エンターテインメントの世界は、全く違っていた。



 「これを覚えたら、これができるようになるよ」。先輩たちが、気軽にダンスのコツを伝授してくれた。



 「背筋がよすぎるよ。里香は、猫背くらいでいいんじゃないかな?」



 何気ないアドバイスに、本多はピンとくるものがあったという。



 「それを意識するようになると、変わりました」。



 試合前のナゴヤドームで、大人気のイベントがある。チアドラがそれぞれの特徴やキャラクターを生かしたパフォーマンスを展開する「Dステージ」。その中に、新体操の技を披露するナンバーが組み込まれた。



 本多の操る「リボン」が宙を舞い、きれいな円を描くと、見ていたファンから大歓声がわいた。180度開脚した状態で、本多が体を反ると、その頭のてっぺんが、足の上につくのだ。その驚異的な柔軟性に、どよめきの声が上がった。



 「すごい子がいるよ」-。瞬く間に、ファンの間で本多の存在が評判を呼んだ。



 午後4時。ナゴヤドームの開門に合わせ、チアドラは各ゲートでファンを出迎える。あっという間に、本多はファンの輪に囲まれる。野球雑誌についた本多のカードは、いまや大人気のレア商品と化している。



 石黒は他球団の関係者から、しょっちゅううらやましがられるという。



 「ああいう子、どこかにいませんかね?」



 つい3年前には、ダンスのリズムが取れなかった女の子は、今やチアドラの“絶対的エース”へと成長したのだ。=敬称略(喜瀬雅則)