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2007年の初夏、欧州最果ての地、アイスランドを訪ねた。当地に住むアイスランド人の友人が私を真っ先に連れて行ったのは、世界最大といわれる露天温泉「ブルー・ラグーン」ではなく、地球の裂け目「ギャウ」でもなく、首都レイキャビク市の外れにある水素ステーションだった。「これが03年に稼働した世界初の水素ステーションよ」。彼女の誇らしげな横顔を今でも思い出す。
アイスランドの当時の人口は30万人を超えたばかりで、現在でも約32万人と私が住む東京都品川区より少ない。だが、自然エネルギーが潤沢なことで知られ、地熱と水力を活用した発電は国内電力需要の7割強に達する。家庭用の電力は自然エネルギーでほぼ賄え、石油などの化石燃料を必要とするのは自動車や漁船に限られていた。
1998年にはこんな特殊環境を生かそうと、アイスランド政府が世界に先駆けて「脱炭素社会」計画を発表した。自動車は水素を燃料に使う燃料電池車に切り替え、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出量を2050年までにゼロにするという壮大な構想で、レイキャビク市内では燃料電池バスも走り始めた。
08年の金融危機で状況は一変し、残念ながら計画は大幅に遅れているという。だが、友人は今でも「“国家プロジェクト”を誇りに思っている。絶対に実現してほしい」と期待を寄せる。
日本の自動車メーカー各社の燃料電池車に関する技術は、紛れもなく世界トップレベルにある。車両価格の引き下げや充電インフラの整備など課題を挙げれば切りはないが、最も問題なのは究極のエコカーと呼ばれる「未来のクルマ」への国民の関心の低さではないだろうか。世界に先駆けて燃料電池車の実用化に成功するため、国を挙げて盛り上げる機運づくりが必要だと思う。(古川有希)
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