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パナソニックが三洋電機を買収した際、電池事業のキーマンの一人だった雨堤氏が退社したことを知り、「なぜあいつを辞めさせたんだ」と悔しがったというエピソードが伝わっている。
研究所内を案内してもらいながら、思ったより簡素な設備に強い印象を受けた。もちろん、導入してある設備は最先端の機材が含まれる。しかし、たとえば、クリーンルーム。部屋の中に、人の背丈ほどの高さの箱が置いてあるだけだ。「大手メーカーは、部屋ごとクリーンルームにしてしまうでしょうけど」。実際は、この規模で十分なのだという。
取材中、旧経営陣や日本の電機産業の現状、そして日本社会全体に対して、激越ともいえる批判も出た。三洋のリチウムイオン電池事業を引っ張ってきた男として、危機感は深い。
一方で、日本の底力に対する信頼は揺らいでいない。たとえば、日本が得意とした「すり合わせ」技術は、もはやオープン化、標準化が進む現代においては時代遅れの競争優位にすぎないとの議論があるが、雨堤氏はそれを一笑に付す。日本のものづくりの技術を生かせる分野はまだまだあるというのだ。
研究所を見学して感じたのは、見る者を圧倒するような、いかにも「最先端」といった雰囲気ではなく、いってみれば「手作り感」だった。
電池の組み立て工程の改善を目指し、いろいろな組み立て方をあれこれ試すための機械があった。われながらばかばかしいと思いつつ、こんな感想が口に出た。「いかにも創意工夫、という感じですね」
「そりゃそうでしょう。それがなかったら、ものづくりはおしまいですよ」。雨堤氏はあきれたように笑いつつ、こう指摘した。
「コンピューターでシミュレートしたらできるなんて思っていると、あっという間にだめになります。できあがった技術を標準化するのはいいのですが、ものづくりのプロセスを標準化することは、日本の強みの放棄以外の何物でもない」
イノベーションはコンピューターの画面からではなく、現場の泥臭い試行錯誤から生まれるという事実を日々目の当たりにしてきたからこそ、そう断言できるのだろう。グローバル市場を見据えながらも日本の強みの正確な把握が求められている今、雨堤氏の挑戦は、大きなヒントを提供しているといえる。(前編集長 松尾理也)
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