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かつて大阪府立高校の教員だった府教委の50代の男性職員は、府立高に赴任したばかりだった昭和50年代半ばの苦い記憶を、今も胸に刻んでいる。
校内暴力が社会問題化していた時期、授業すらままならない荒れた学校だった。ある日、校内でしょんぼりとした1年生の男子生徒の姿を見かけた。教員にたびたび食ってかかる“問題児”だった。
「どうしたんや」
「学校を辞めなあかん」
聞くと、保護者が担任の説得に応じ、退学させようとしているという。
「お前はどうしたい?」
「学校に残りたい」
「ほな、担任に言うてみたらどうや」。生徒の背中をそっと押した。
「保護者を説得した俺の苦労を無駄にするのか」。担任は激高した。問題児を残せば、学級全体に悪影響を及ぼす-。そう考える同僚も多かったが、「高校中退という経歴を引きずる生徒の将来を、どう考えているのか」と反論した。
しかし、思いは届かなかった。生徒は改めて担任と話し合った末、最終的に学校を去る道を選んだ。
府教委職員は、今でも教え子たちと交流があり、そのたびに「教師は金には換えられない、すばらしい仕事だ」と感じる。ただ、あのとき一人の生徒を救えなかったことへの悔恨は、消えることがない。
「嫌われても、子供の将来に責任を負うのが教師だと思う」。職員が30年来大切にしてきた信念だ。
■日々難題に向き合う教員
「いい先生」とは何か。教員たちにとって日々突きつけられ、考えさせられるテーマだ。現場の先生たちは、試行錯誤しながら理想像を追い求めている。
大阪府北部の市立小学校に勤務する40代の女性教員は、児童や保護者のニーズに応えきれず、殻にこもって子供に背を向ける同僚の姿を見てきた。「保護者からの要求にも『子供のためにならない』と感じれば拒む。強い信念を持つことが大事になっている」。そう感じながらも「それが『いい先生』なのかどうか、迷いはある」と話す。
元高校教員で、研修会などを通じて教員のサポートに取り組む「教師駆け込み寺・大阪」代表の下橋邦彦氏(73)は、「モンスターペアレント」への対応や、不登校児童へのアプローチなど、日々難題と向き合う教員たちの姿を目の当たりにしている。
「教師は常に毅然(きぜん)としているべき。自分が心から発した言葉であれば、子供たちは受け止めてくれる」。下橋さんは「一人の教師ができることは限られている。だからこそ教師同士の横のつながりが大事だ」と感じている。
■「一生懸命」は理由にならない
大阪府教育委員長の陰山英男氏は、府教育委員に就任したばかりだった4年あまり前、ある討論会で子供の学力低下が話題になった際、「私たちは一生懸命やっている」と訴えた女性教員に対し「一生懸命ということを理由にするな!」と一喝した。
小学校長や教員の経験がある陰山氏は、「いい先生」の条件に、迷わず「自己評価が甘くないこと」を挙げる。「『一生懸命やっているが成果が出ない』という先生がいるが、成果が出ないのはやり方が間違っているからだ」
複雑多様化する社会の中で、ますます見えにくくなる「理想の教師像」。体罰や指導力不足教員の問題は、教員や学校が、時代とともに変化する子供たちの資質や、保護者のニーズに対応しきれていないことの裏返しなのかもしれない。
しかし「いい学校」づくりには教員や学校だけでなく、保護者の側も責任を負わなければならない。橋下徹大阪市長や松井一郎府知事の教育改革は、まさにそのことを突きつけている。
理想像の追求へ、多くの教員は希望を捨ててはいない。陰山氏は保護者に向けて投げかける。「学校は信用できないという親がいるが、教師の力を簡単に諦めてほしくない。教師たちも諦めてしまうから」
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