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■津波に耐えた鳥居、見守る朝日
午前6時半過ぎ、福島県いわき市北部の波立(はったち)海岸。日の出前の空が赤く染まると、50メートルほど沖の「弁天島」に、鳥居のシルエットが浮かび上がった。少しすると、鳥居の後ろから昇った太陽が周辺の風景を黄金色に染め上げた。息をのむような美しい朝日。新たな一日の始まりだ。
元旦の初日の出スポットとして知られる波立海岸は、細かい砂利に覆われた長さ1キロほどの美しい海岸だ。東日本大震災の津波で防波堤は壊され、地盤沈下などの被害も確認され、今も重機を使った海岸線の整備が続く。東京電力福島第1原発事故の影響で、昨夏も海水浴場の再開は見送りになった。それでも、太平洋に浮かぶ岩の上に建つ真っ赤な鳥居の姿は、以前と変わらない。
波立海岸沿いにあり、弁天島を管理する波立寺(はりゅうじ)の皆川岱寛(たいかん)住職(51)は「震災当日、津波は弁天島の鳥居を完全にのみ込み、寺や集落にまで達した。でも、台風などで何度も壊れた鳥居が、今回は、なぜか無事だった」と話す。弁天島へ渡る橋の欄干は津波で倒されたが、岩場にあった七福神の像や弁財天を祭るほこらも流されることはなかった。
しかし、波立海岸のすぐ北側にある久之浜地区は津波と火事で多くの家屋が消失し、60人を超える犠牲者を出した。同地区で雑貨店を営んでいた伊藤ミスズさん(55)は、今も仮住まいで不自由な生活を余儀なくされている。「その日暮らしみたいな毎日。正月飾りをしてお祝いする気にはなれない。家を直して早く落ち着きたい」と、新しい年に期待する言葉は聞けなかった。震災から2度目の新年を迎えても、落ち着いた生活を取り戻せない被災者は少なくない。
朝日に染まる津波に耐えた鳥居。この風景のように震災前と変わらない暮らしを、被災者全員が一日も早く取り戻せることを願いたい。(写真報道局 早坂洋祐)
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