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自民党の圧勝、単独過半数という結果に終わりそうな2012年の総選挙。結果の数字を見る限り、日本は大きく「右」にかじを切ることになる。
憲法改正だの国防軍だの強硬な主張をする安倍内閣が成立すれば、外交的には、当然、尖閣諸島を巡って中国と厳しく対立することになるだろうし、韓国が実効支配する竹島についても領有権の主張を改めて繰り返すのだろう。北方領土についてはロシアに領土返還がなければ日ロの経済協力にもかげりが見えるなどと脅かす可能性だってある。
今年は外交関係で領土問題が突出した年だから、その意味では想定された結果ということもできるが、実際には右にかじを切ったからといって領土問題が「有利」に運ぶとはとても思えない(例えば、維新の石原代表が主張するように、尖閣に船だまりを建設しようとすれば、中国ではこれまでにない反発が生まれる可能性が高い)。万が一、中国と砲火を交えるなどという話になったら、日本経済に対する打撃は計り知れない。
外国から見れば、最も不思議なのは原発に関する国民の選択だろうと思う。自民党は、原発の可否については3年間かけて判断するとしている。原発をめぐる議論では、民主党政権ももともとはこれまでの30%という原発依存度を15%ぐらいに引き下げという目論見だった。しかし国民の原発に対する忌避感情があまりに強かったために、2030年代に原発依存ゼロを目指すと言わざるをえなくなったという経緯がある。
そうすると民主党に「ゼロ」を公約させた同じ国民が、原発政策の決定を先送りする政党を選ぶことで、原発継続を望んだということになるだろう。何と言っても自民党は性急な原発廃止は経済に悪影響があると主張してきた。経団連などはほっとするだろうが、外国から見れば、この有権者の「心変わり」と首相官邸のあの週末デモの関係をどう解釈すればいいのか悩ましい。
米国はほっとしているに違いない。日本が原発を早急に廃止するような方向に動けば、米国の原子力政策も大幅な変更を余儀なくされるところだった。それだけではない。日本の原子力技術が流出することを非常に憂慮していたからである。これで一応は原発問題に関して「時間を稼げる」ことになったと判断しているはずだ。
もっとも自民党の前にすぐに原発問題は立ちはだかるだろう。敦賀では原子炉の真下に活断層があるという原子力規制委員会の判断が下されれば、これを廃炉にするかどうかという決断を迫られるからだ。もし廃炉にするとなるとその費用をどうするか、廃炉から出る放射性廃棄物をどうするかという民主党政権を悩ませた同じ問題に直面する。
エネルギーではもう一つ、再生可能エネルギーをどうするかも大きな問題になる。電力会社からは現在の買い取り価格を何とか下げてほしいという陳情が殺到する。値上げは抑え込まれる、買い取りは強制されるでは電力会社はたまったものではないからだ。もし自民党政権が再生可能エネルギーの買い取り価格を下げたり、あるいは買い取りを制限できるようにすれば、メガソーラー企業などはたちまち経営がおかしくなるだろう。それをどのように調整するのか、これも難しい選択を迫られるのである。
●自民党は“日本を取り戻せる”か?
自民党が決断を迫られる問題がもう一つある。それはTPPだ。「聖域なき関税撤廃が条件なら交渉に参加しない」というのが自民党の基本的な立場だ。しかし建前としては聖域なき関税撤廃でも、交渉の過程で猶予期間を設けるとか、例外規定を盛り込むとか、さまざまな方策があるはずだ。それを交渉するのが当然のことだが、どうも自民党は腰がすわらない。伝統的な支持票である農村票が怖いということなのだろうが、その一方で日本の農業は壊れかけている。そして壊してきたのが、長きにわたる自民党の農政であることは間違いない(この点では民主党の責任はほとんどない)。
TPPに関しては農協だけでなく、日本医師会など他の支持母体も反対を表明している。ただ、日本経済全体のことを考えれば、TPPから外れるリスクと、入ったときのメリットを比較して慎重に選択しなければならない。さらに言えば、経済的側面だけでなく、政治的あるいは外交的な側面も検討しなければなるまい。
政治とは、短期的には不利益に見えても長期的な国益を追求するために国民を説得するものだ。自民党がそれを本当に実行できるかどうか。こうした選択の過程で問われる。もし安倍政権が2007年の参院選で大敗した轍を踏むことを恐れて、大胆な政策を打ち出すことを日和ってしまえば「日本を取り戻す」のではなく「日本を後戻りさせる」ことになる。その分岐点はすぐに来る。
[藤田正美,Business Media 誠]