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国内原発の稼働停止による電力不足を受けて、電気を使わない冷房や空調技術に注目が集まっている。三菱樹脂が開発した水蒸気吸着材「AQSOA(アクソア)」を使った冷却システムもその1つだ。
アクソアはゼオライト系機能性吸着材で、結晶中に非情に細かい穴が空いており、その穴に水分を吸着させることで、周囲を乾燥させる働きを持つ。シリカゲルなどの従来の吸着材に比べ、低温で水分を放出する特性を持つ。太陽熱や工場排熱、自動車の排気など50~80度の排気の多くが利用されないまま、大気に放出されており、これらの熱の再利用にもつながりそうだ。
従来の吸着材は、水分を放出するために100度以上の熱を加える必要があったが、アクソアは結晶の構造を均一にすることで60~80度の熱で放出できるようになった。アクソアが水分を吸着しようと蒸発させた際の気化熱で5~15度の冷水を作ることができ、工場などの排熱で吸着した水蒸気を水として放出させて循環させることで冷房設備として機能することになる。
また、水分の吸着、放出を制御することで加湿、除湿などの空調としても活用することができる。この空調システムは、温度を一定に保ったまま、湿度だけをコントロールできる。このため、将来的にはオフィスなどへの用途拡大を目指している。三菱樹脂は、アクソアを使用した熱交換器や空調機の部材を手がけており、商業施設や学校、工場など、すでに国内外で多くの納入実績を持つ。平塚工場(神奈川県平塚市)内の研究設備の一角に、アクソアを使った空調を体感できるスペースも開設している。
一方、海外向けでは、ドイツの冷凍機メーカーのインベンゾーにアクソア熱交換器が採用された。データセンターなどに約100台の冷凍機が納入されている。また、ドイツの大手ボイラーメーカーとも本格採用に向けた交渉を進めており、海外で受注の動きが広がりそうだ。需要増を見越して、アクソアの生産設備の増強を検討。2015年度までに新規設備を導入する方針を固めているほか、現在は年150万トンの生産能力を持つ直江津工場(新潟県上越市)がフル稼働しており、年内に増産計画をとりまとめる予定だ。コージェネレーション(熱電併給)システムを組み合わせた新システムの開発や市場開拓にも乗り出す。
三菱樹脂は、アクソア関連事業を中期経営計画で掲げる新規事業の1つと位置づけており、18年度までに100億円規模の事業拡大を見込む。東日本大震災による東京電力福島第1原発事故に端を発する原発停止などで電力の安定供給神話が揺らぎ続けるなか、エネルギー政策の見直しが急務となっている。ただ、省エネ社会を見据えた現実的な議論も不可欠だ。
また、世界中で温室効果ガス削減への努力が進むなかで開発されている新技術は、円高などで沈む日本経済の起爆剤としての期待も大きい。先進国だけでなく、電力インフラの乏しいアラブ首長国連邦やシンガポール、インドなどからも引き合いが来ていることからも、その注目度の高さが伺える。日本企業が先行するとされる環境技術が産業として成長するか、三菱樹脂の取り組みが試金石の1つとなりそうだ。(高木克聡)
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