大阪ガスは、ガス炊飯器を21年ぶりにフルモデルチェンジし、10月1日から発売する。原子力発電所の再稼働が見通せず、電力不足が慢性化する中、節電意識の高まりからガス利用者を増やす“おいしい”チャンスを逃さない手はないというわけだ。厨房(ちゅうぼう)の「ガス対電力」の勢力図が今後塗り変わる可能性もある。
大ガスが東京ガス、東邦ガス、リンナイと共同で発売するのは、新型ガス炊飯器「直火匠(じかびのたくみ)」。内釜に熱伝導率が高く軽量のアルミ製蓄熱厚釜を採用し、かまどで炊くようにコメの甘み、粘りや香りをきわ立たせる「本焚白米モード」を搭載している。
従来商品に比べ、ご飯の甘みは約31%、粘りは約13%、香りで約3%それぞれ向上。また、ご飯の「もちもち感」「おこげ」を5段階で調節できる機能なども備えている。
5合炊きの直火匠で3合のコメを炊く場合、電気炊飯器に比べ、年間の使用電力量を95キロワット時減らす節電効果が期待できるという。価格は5合炊きが7万9800円、1升炊きが8万5050円。ほぼ同じ機能を持つ高級電気炊飯器と比べてもコストパフォーマンスはひけをとらない。
大ガスとリンナイは平成3年、かまどを炊く際の人間の感覚による微妙な火加減調整を再現したガス炊飯器「αかまど炊き」を商品化。その後、東京ガス、東邦ガスも開発に加わり、マイナーチェンジを繰り返してきたが、「αかまど炊きで最高水準の炊飯器を作れていたので、むしろ、コンロ上炊飯の普及のほうに注力してきました」と大ガス商品技術開発部の宇野香奈さんは説明する。
国内のコメ消費量は減少傾向が続いている。その一方で、「おいしいご飯のニーズは高まっています」と商品技術開発部の阿部真千子係長は話す。最近はやわらかすぎない食感が好まれており、「甘みや香りをもっと出せる新型炊飯器を開発しようということになりました」と明かす。
直火匠は平成21年に開発がスタート。理想の味に近づけるため、試験と試食に半年を費やし、炊いたコメの量は4社合計で1・5トンにも及んだ。23年3月11日には東日本大震災が発生。大ガスのアンケートによると、節電意識の高まりもありコンロを使った炊飯の経験者は震災前に比べ5%増加と「ガス炊飯器の追い風にもなっている」(阿部係長)。
直火匠の年間販売目標は4社合計で3万台。このうち大ガス単独では7600台を見込んでおり、これは同社が昨年度に販売したガス炊飯器約1万6千台の半数に迫る数字だ。これほど強気な目標を設定するのは商品に対する自信だけでなく、関西電力など電力各社が「オール電化」のPRを自粛せざるを得ないことの影響も大きい。
関電では大飯原発3、4号機(福井県おおい町)以外の原発の再稼働のめどが立たず、冬も節電要請は避けられそうにない。「節電をお願いする立場なのにオール電化を派手に売り込むわけにはいかない」(関電幹部)というわけだ。
これに対し、大ガスは上戸彩、大沢たかおといった人気俳優をCMに起用。8月には家庭用燃料電池「エネファーム」の販売台数が累計1万台を突破するなど業績は好調だ。直火匠のCMについても秋以降に計画しており、「出演タレントも含めて調整中」(広報担当)という。ガス炊飯器のシェアは炊飯器市場全体の5%。まだ微々たる数字だが、電力不足を背景に、大ガスなどガス会社は今後も需要は右肩上がりで伸びていくことを期待している。(宇野貴文)
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