恋人がいることが面倒なの?!(~_~;)




●仕事をしたら“若者”が見えてきた:



 「新入社員が毎年入社してくるけど、彼らの考えていることがよく分からない」と感じている人も多いのではないだろうか。携帯電話を触らせれば自分たちが知らない機能を使いこなしているし、若者言葉についていけないこともあったりする。また渋谷の街をあてもなく歩き回っている若者たちをみると、「近頃のヤツは……」などと、つい愚痴が出てきそうになる人もいるだろう。



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 しかし私たちは本当に、若い人たちのことを理解しているのだろうか。メディアが報じる彼らの情報を見て、大人は“分かった”つもりになっているだけなのかもしれない。



 そこで若者の現状に詳しい、博報堂若者生活研究室の原田曜平氏に分析してもらった。これまで1000人以上の若者にインタビューしてきた原田氏は、彼らのことをどのように見ているのだろうか。聞き手は、Business Media 誠編集部の土肥義則。



●バックナンバー:



●カワイイが武器にならない



原田:ドイさんに、ちょっとお聞きしたいことが。



土肥:はい、なんでしょう?



原田:若い女性の間で「私はオタクです」というが増えてきているのですが、なぜだか分かりますか?



土肥:えっ、そうなんですか? 「オタク=いいイメージがない」と考えている人は多いと思うのですが、あえて自分から名乗りを挙げるには何らかのインセンティブがあるのでしょうね。



原田:SNSを使って人間関係が増えてくれば、自分のキャラを立てなければいけなくなってきます。だから「私はオタクです」と言っているんですね。



 例えば「カワイイ」というキャラを立てようとします。昔であれば、大学生のときに「ミス○○大学」になれば、いわば“天下”を取ったようなものでした。なぜなら他の大学とのつながりがあまりなかったので、どの大学にどのくらいカワイイ子がいるのかがよく分からなかった。



 しかし、今は違う。ネットを使えばいろいろな情報が入ってくるので「ミス○○大学」になっても、他の大学では自分よりもカワイイ子がいたりする。



 昔と違ってライバルが増えているので、自分に付加価値を付けなければいけなくなっているんですよ。



土肥:「カワイイ」だけが武器にならない、ということですね?



原田:そうです。「見た目はカワイイのに、実はオタク」――このギャップがアピールポイントになるという意識があるんでしょうね。



 ただこうした女性には2つのタイプがあって、本当にオタクとオタクのふりをした女性がいます。昔であれば秋葉原に足を運ばなければ、いわゆるオタクの情報を手に入れることは難しかったのですが、今は違います。ネット環境が充実しているので、ちょっと調べればオタクの知識を得ることができる。つまりオタクになりやすい環境なんですね。



 昔の女性を極端に表現すれば、興味があるのは「ファッション」だけだったのに、今は「ファッション+アニメ」になっている。効率よく情報が得られるので、興味のジャンルを増やすことができるんですよ。



土肥:純粋なオタクは増えているのでしょうか。それとも減ってきているのでしょうか。



原田:少なくなってきている、と感じています。なぜならSNSで中学や高校の同級生とつながっているので、彼女たちと会うときには普通のファッションをしなければいけない。また普通のコミュニケーションをしなければいけない。なので、深いオタクになりにくい環境になっていますね。



●彼氏・彼女がいない理由



土肥:数年前から「若者が草食化している」といった指摘があります。また「肉食じゃないから、彼女のひとりもできないんだ!」といった声も聞いたことがあります。



 「若者の草食化=彼女ができない」という関係があるのかどうか分かりませんが、彼氏・彼女がいない人が増えてきていることは確かなんです。



 国立社会保障・人口問題研究所の調査(2010年)によると、「交際している相手はいない」と答えた独身男性は61.4%。ここで見落としてはいけないことは、彼女がいない男性が前回調査(2005年)よりも9.2ポイントも増えていること。また彼氏がいない女性も、前回調査に比べ4.8ポイントも増えています。



 ここ5年くらいで「彼氏・彼女がいない」若者が急増しているのですが、こうした背景にはどのような要因があると思われますか?



原田:大きな原因は2つあると思っています。1つは経済的なこと。景気が低迷しているので、女性は安定を求めがちになっているのではないでしょうか。



 例えばバブル経済のころ。女性は結婚相手に「三高」(年収高い・学歴高い・身長高い)を求める傾向がありましたが、今は違う。平凡な年収、平凡な外見、平穏な性格を望む「三平」、低姿勢、低依存、低リスクを望む「三低」の女性が増えてきています。



 自分の身の丈にあった男性を求める傾向があるかもしれませんが、でも相手は「正社員でなければいけない」と思っている人が多いんですよね。



土肥:政府が行った調査をみると、既婚男性の88.1%は正社員ですが、非正規雇用者だと5.4%にとどまってしまう。



原田:経済的な理由で、女性の期待に応えられる男性が減っていることは確か。女性側からすれば、条件に見合う同世代の男性が見つけにくくなっているのではないでしょうか。



 フリーターをしている独身男性に話を聞いてみると「自分に自信がなくて、女性からモテない……」といった人が多いんですよね。例えば山の手沿線に住んでいるフリーター男性はこのように言っていました。「地元のキャバクラにはよく行っているけど、職業の話は絶対にしない」と。このようにフリーターであることに、どこか後ろめたさを感じている人が多い。



 一方、女性の間では「専業主婦になりたい」と思っている人が増えてきています。また男性側も自分の収入が減ってきているので、「奥さんになる人には働いてほしい」と考える人が増えてきています。景気の低迷が続いているので、このように考えるのは当たり前ですよね。



土肥:女の人は「男の将来を買え!」といった言葉がありますが、今の時代……なかなか将来の夢を描きにくくなっているのかもしれませんね。



●あえてリスクをおかさない



土肥:彼氏・彼女がいない若者が増えてきている理由として、ほかになにかありますか?



原田:携帯電話やSNSの普及もかなり影響していると思います。彼氏・彼女がいない人が増えたからといって、「僕は女性が苦手……」「私は男性が苦手……」といった人が増えているわけではありません。むしろ、そうした人は昔よりも減ってきているのではないでしょうか。



 前編でもお話ししましたが、今の若者はSNSを使っているので、友だちの数が増えていっています。人間関係数がどんどん増えているので、男性であれば女友だち、女性であれば男友だちの数が増えている。ところが、それが恋愛にまで発展しない現実があるんですよ。



土肥:昔よりも異性に慣れている人が増えている。またSNSで、異性の友だちが増えている。であれば、彼氏・彼女のいる人が増えてくるのではないでしょうか。



原田:いえ、友だちのままで終わってしまうケースが多いんですよ。たくさんのネットワークでつながっているので、ヘンな口説き方やガツガツした口説き方をしてしまうと、それが噂として出回ってしまう。例えば「あいつ、ヘンな口説き方したらしいけど、ちょっとウザくねえ?」といった感じで。



 SNS上でこのような情報が流れしまうと大変ですよね。友だちと友だちがつながっているので、ヘンな噂がどんどん出回ってしまう。今の若者はそうした環境下にあるので、リスクをとるのが難しくなっています。もし女性にアタックして失敗すれば……。付き合っていても、もしヘンな振り方をすれば……。といったことを考えれば、付き合いにくくなるし、別れにくくなってしまう。



 今の若者にとって、異性と付き合うことは“村の中で結婚する”ようなもの。もし離婚すれば「あそこのダンナさん、ひどいわよねえ」といった話になってしまう。次の人と付き合うことになっても「あの人、前の彼女といろいろあったらしいわよ」といった噂話が出回ってしまう。こうした環境の中で生活しているので、恋愛することが難しいんですよ。



土肥:原田さんの話を聞いていると、深い関係を築き上げるのは難しい感じがします。



原田:恋愛だけでなく、親友もできにくいですね。たくさんの人に時間を割かなければいけないので、男性依存が強い女性には、すぐに「あいつはおかしい」なとと言われてしまう。



 また彼氏と別れれば、翌日には他人がそのことをツイートしていたりする。「あいつ、別れたそうだぞ!」などと書いてある。そうした書き込みを読めば「あっ、オレのことだ!」と分かってしまう。このような嫌な気分にならないために、あえてリスクをおかさない人が増えてきているのではないでしょうか。



●面倒な関係



原田:知り合いの女性からこのような相談を受けました。「彼氏ができたのですが、彼の噂話がたくさん入ってきて……悩んでいます」と。例えば「○○(彼氏の名前)は、昔、女遊びばかりをしていた」といった内容なのですが、彼女にはそれが事実かどうかが分からない。そして「もう誰も信じられない」とも言っていました。



 そんな状態になれば、誰だって疑心暗鬼に陥りますよね。心に深い傷を追う人がでてきても不思議ではありません。



 こうした噂話はどこから出たのか、情報の出所がよく分からないケースが多いんです。昔であれば、中学を卒業して、高校に入学すれば、中学時代の仲間とは基本的に切れてしまう。過去の情報はなかなか入ってきませんでした。



 しかし今はSNS上でつながっているので、誰かと誰かが友だちであったりする。そうなれば友だちだけでなく、自分の過去の情報もどんどん入ってくるんですよ。ちょっと、面倒な関係ですね。



土肥:原田さんの話を聞いて、「今の若者は、面倒な関係の中で生きているんだなあ」と感じている読者も多いかもしれません。でも、いい面もあるんですよね? 今の30代以上にはないものが。



原田:もちろんです。SNSを使っていれば、人とつながりながら年を重ねていくことができます。人間関係が分断される期間がないので、昔の人と違って、ネットワークを有効活用できる人が増えていくのではないでしょうか。



 例えば沖縄県に旅行することになって、たまたま中学時代の友だちが沖縄に住んでいることが分かった。そしてネットで連絡をとるうちに「沖縄で会おう」という話になるかもしれない。もちろん国内だけでなく、世界中につながることができますよね。また社会人になれば、ビジネスの話につながっていくかもしれない。



 過去にはいなかったニューモデルが、いまの若者から生まれてくるのではないでしょうか。そうした人がたくさん出現することを、期待したいですね。



(終わり)