心を揺さぶる絵とはいったいどんなものだろうか。展覧会でさまざまな絵画に接して、テクニックのあるアカデミックな絵を見ても心が打たれることはない。確かに技術はあるのだが、それだけのこと。技術は最低限必要なことだが、それだけでは人の心を打つことはできない。たとえば毒をもっていたり、メッセージ性というものも秘めていなければ人は引きつけられない。
東京・銀座で個展が開催されている小村希史(こむら・まれふみ)さん(昭和52年生まれ)の油彩画は見るからに普通ではない。毒があり、強烈。絵は見る者に直に訴えかけてくる。
描かれているのは、ワニや馬、男女の顔のほか、西郷隆盛といった歴史上の人物や少年のヒーローだったウルトラセブンや仮面ライダーもある。なんでも題材になってしまう。
不思議な印象を与えるのが、描かれたものの一部分が欠落していることだ。たとえば馬の絵=写真=では、どういうわけだか顔面や足の一部が消えてしまっている。実に不自然でシュールだ。
今回の発表では、これまであまり描かなかった風景も登場する。星がまたたく夜の冷たい風景。スピルバーグ監督の映画「未知との遭遇」の1シーンをモチーフに福島の風景と重ね合わせた。東日本大震災の津波や地震の衝撃は、いまだに作者の心から離れない。
震災で多くの人命や街が失われた。絵の中の空白は喪失感を暗示しているのだろうか。29点の展示。(渋沢和彦)
29日まで(日月祝休)、東京都中央区銀座2の16の12、銀座大塚ビル地下1階、メグミオギタギャラリー。(電)03・3248・3405。
- レイ・チャールズに捧げた最高傑作 ザッツ・ホワット・アイ・セイ
- ゴミ屋敷ではありません 反断捨離アーティスト、藤浩志
- 死に近づき、生を認識 「電球」アート 作間敏宏「治癒」
- “ウサギ人間は”檻の中 「画廊からの発言 新世代への視点2012」
- 出世した斎藤さん 自然の気配を描く 「斎藤典彦-山水を憶う-」
- 韓国で伝えられる「良心的日本人」