夏といえば花火、そして祭り。夜空を彩る光の芸術や祭りは、見る人の心をいやしてくれる。東日本大震災から約1年半。この夏、山形の鶴岡市と山形市で開かれた恒例の花火大会で、原発事故の放射能漏れを避けるために避難者たちは再会を果たし、万感の想いを込めて花火を見つめていた。
■テーマは再会
藤沢周平の出身地で知られる鶴岡市の赤川河川敷で8月10日に開催された第22回赤川花火大会。
「大きくなったなあ」
花火が上がる河原で、福島県南相馬市原町区から酒田市に避難している会社員、木幡雅喜(こわたまさよし)さん(52)は目を細めた。
少し照れくさそうに笑みを浮かべていたのは、相馬市立中村第1小5年の佐藤幸紀君(11)だ。
2人は「野馬追ランニングスポ少」時代の師弟関係。木幡さんはアマチュアランナーとして、地元で子どもたちにランニングを教えてきたが、福島第1原発事故で長野県にいったん避難、仕事の関係で昨年12月から酒田市で妻、多嘉子さん(52)と2人で生活している。花火大会主催者が福島から子どもたちを招待する際のボランティアを募集しているのを知り、多嘉子さんと2人で応募、約1年半ぶりに佐藤君との再会を果たすことができたのだった。
「屋外での運動が制限されているため、体力が落ちたり太ったりしていないか心配でしたが、元気そうで安心しました」と木幡さん。
■たくましく成長
佐藤君は南相馬市小高区から現在は相馬市に避難した。学校も変わり、同級生たちともばらばらになってしまった。
しかしこの日、友達たちだけで参加。「新しい友達もできてとても楽しい。今日も友達と来ています。今は走っていないけれどまた、走りたい」とはきはきと話してくれた。
インタビューを受けている間に配られた鶴岡名産のだだちゃ豆も、友達が佐藤君の分をきちんととっていてくれたりと、新しい環境に溶け込んでいるのが見てとれた。
「以前は少し恥ずかしがりやさんだったのに。震災、原発事故で大変な経験だっただろうが、成長させたのでしょう。元気な顔が見れて本当に良かった」と木幡さんは優しく、佐藤君の肩をたたいた。
木幡さん自身も、酒田市での避難生活で内向的になりなっていたという。
今年の赤川花火大会のテーマは「再会」。酒田、鶴岡市だけで、福島からの避難者は約590人にのぼっている。地元の避難者と、福島から約550人が無料招待されていた。
■別れと再出発
赤川花火大会から4日後の14日に山形市で開かれた山形大花火大会で、出会ったのは福島市から山形市に昨年11月、現在は3歳と生後11カ月になる2人の子どもと避難してきた舘野未来(みき)さん(32)家族だ。離れて暮らしている夫の聡(さとし)さん(28)とは週末だけのため、子どもたちも大はしゃぎだった。
未来さんは原発事故時は妊娠中だった。避難したかったが、一人の出産が不安だったため出産後に山形市に。会社員の夫は仕事があるためかりていたアパートを引き払って福島の実家に移り、週末に山形に通う生活だ。
「お風呂にしても、2人の子どもをみなければならないため一人で入れるのは本当にきつい。子どももパパがいないのを寂しがりますし。まだ福島に戻るのは正直不安ですが、9月には福島に戻ります」と未来さんは話す。
福島市内でも放射能の値が低い地域でアパートが見つかった。この機会を逃すと、戻れるのがいつになるかわからないため戻ることに決めたという。
最後になるかもしれない、山形での花火を、家族4人で寄り添うように見つめていた。
■喧噪(けんそう)の後で
今年50回目を迎えた山形花笠まつり。2回目の参加となる福島県南相馬市から山形市に避難してきた女性は、「やっと今年、楽しめたような気がします」と話す。避難先となった山形が「第2のふるさと」のように感じるとはいえ、肩身の狭い思いをずっと感じ続けてきたという。
彼女の団は女優、渡辺えりさんの「夢見る力 渡辺えりと踊ろう会」。市総合スポーツセンターで開設された避難所に炊き出しに訪れた渡辺えりさんと出会ったのが、花笠踊りに参加するきっかけだった。
ただ、昨夏は、渡辺さんが公演で来られなかったため、渡辺さんと久しぶりの“再会”になった。打ち上げもすべてが終わり、帰途につく渡辺さんと固く握手をかわし、「がんばるのよ」という励ましを涙ながらに受け止めていた。
山形に赴任してきてこの5月、2年目に突入した。この夏、山形を知るためにできるだけ祭りや花火大会に取材参加するようにした。花笠祭りには取材だけではなく、渡辺さんの団に踊り手として参加した。昨夏、取材でお世話になった前述の南相馬市の女性との「今年は参加する」という約束を果たすためだった。
祭り、花火の下での再会と別れ。「先のことがみえない」という不安はあるけが、彼女たちは懸命に生きている。祭りはにぎやかであればあるほど終わった後はなんともいえない寂しさがあるが、彼女たちとの出合いがそれを払拭(ふっしょく)してくれた。(産経新聞山形支局長 杉浦美香)
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