コーラ系飲料で初めて特定保健用食品(特保)の認定を受けたキリンビバレッジの「キリンメッツコーラ」。4月の発売からわずか2週間で年間販売目標の100万ケース(1ケース=24本)を達成し、一時は供給が追いつかなくなったほどの人気商品となっている。食事と一緒に飲めば脂肪の吸収を抑える効果が特徴で、30~40代男性の支持を集めている。あまり健康的なイメージがないコーラと、特保という意外性のある組み合わせは、これまで若者層が中心だったコーラ系飲料市場に新風を吹き込んだ。
【写真】特保用食品の試験、審査にハラハラ… 「寝ても覚めてもコーラの毎日」
キリンメッツコーラの開発が始まったのは2007年。花王の「ヘルシア緑茶」やサントリーの「黒烏龍茶」をはじめ、特保に認定された茶系飲料がヒットし、世の中は空前の“特保飲料ブーム”に沸いていた。
「同じような茶系飲料を二番煎じで販売しても先行する商品に勝つのはなかなか厳しい。それならばと着目したのが炭酸飲料だった」。マーケティング部商品担当の光星晴信主任は振り返る。そこで、飲んでみたい特保の炭酸飲料を消費者へのアンケートで聞いたところ、コーラへの期待が非常に高かったという。
日本人が飲む炭酸飲料の約2本に1本はコーラ系飲料とされる。ポテトチップスなどのスナック菓子やハンバーガー、揚げ物といった脂っぽい食べ物と合わせてコーラを飲む人は多い。
ただ、コーラ系飲料を飲むのは若年層が中心で、年齢とともに飲用率が低下する特徴がある。一方で、健康意識の強い30代以上の男性は特保飲料の飲用率が高い。「そんなジレンマを解消する商品を発売すればコーラ離れした層の需要を掘り起こす大きなチャンスになる」ことは光星主任はわかっていた。
とはいえ、同社はそれほど炭酸飲料に強みを持っているわけではない。コーラ系飲料はコカ・コーラとペプシの2強の寡占状態が続く。過去にも飲料メーカーが市場参入したが、2強の分厚い壁に阻まれてきた。特保という新たな価値を武器にどう切り込んでいくか、試行錯誤が続いた。
開発で最も苦しんだのはコーラの味だった。そもそもコーラに対する知見もないゼロからのスタートのうえ、すでに味や人気が定着しているコカ・コーラとペプシに負けない味を見いだすのは容易ではない。特保飲料は健康に良いという半面、味が良くないというイメージも強かった。開発陣はそんな常識を覆すべく「おいしい特保飲料」を目指した。
健康志向の高まりから、コーラ系飲料でも、糖質ゼロやカロリーオフをうたう商品はあるが、開発にあたってはそれらに加え、健康にプラスの価値を付けるという発想で開発が進んだ。そのために「コーラ好きの人が求める甘さの微妙なバランスを、砂糖を使わずに実現する」ことにもこだわった。
100回以上の試作、1000種類のサンプルをつくり、糖質ゼロでありながら甘味料を使ってコーラ独特の甘みを実現。カロリーも1本(480ミリリットル)当たり5~15キロカロリーに抑えた。光星主任は「炭酸を強めにすることでコーラらしい飲み応えや刺激、爽快感が味わえる商品に仕上がった」と胸を張る。
もう一つの特徴は効果面だ。キリンメッツコーラに含まれているトウモロコシ由来の食物繊維「難消化性デキストリン」は、整腸効果や糖の吸収を抑える効果を持つ特保ではごくありふれた成分にすぎない。だが、試験の結果、難消化性デキストリンにはそれらの効果に加え、小腸で食事から摂取した脂肪の吸収を抑えて排出を増加させるという「第3の効果」が得られることが証明され、大きなウリとなった。
特保飲料は認定を受けるのに必要な申請の準備や国の審査に時間がかかるため、通常の清涼飲料水と比べて開発期間が長く、コストもかさんで販売価格が高くなってしまう。だが、いくら良い商品でも値段が高くては多くの人に買ってもらうことはできないと、1本当たり税抜き価格150円と、通常のペットボトル入りのコーラ系飲料とほとんど変わらない値段に設定した。
4月24日の全国発売後は増産に追われるほどの人気になり、7月には年間販売目標を当初の100万ケースから6倍の600万ケースに引き上げた。男女を問わず、幅広いとくほ層に受け入れられたことも好調な滑り出しを後押しした。
ライバル各社の追撃が想定される中で、今後の最大の課題はコカ・コーラ、ペプシの2強と並ぶコーラ系飲料の「定番商品として定着できるか」(光星主任)だ。
(橋本亮)
■「キリンメッツコーラ」 コーラ系飲料では初めて特定保健用食品(特保)の表示認可を受けた。480ミリリットル入りで希望小売価格は150円(税別)。食物繊維の一種である「難消化性デキストリン」を配合しており、食後の血中中性脂肪の上昇を抑制することが実験で証明されたという。砂糖は使わず、糖質はゼロで、健康を気遣う30~40代の男性がメーンターゲット。
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