中国経済が大きな転機を迎えていることを示す、静かな変化が随所で起きている。外国企業の直接投資が急減、資本の流出が拡大するなどで、外貨準備高が約20年ぶりに減り始めた。4~6月期の国内総生産(GDP)成長率が7・6%と約3年ぶりの低成長になったのに、賃金の上昇が続いている-などだ。
「中国の潜在成長率が7%前後の中成長時代に移行した」との見方がここへきて増えている。問題はこの転換を円滑に進める政治・経済改革を怠り、再び公共事業で景気浮揚をもくろむ動きが強まり出したことで、現状では中国は数年内に重大事態を招きかねない。
30年間の超高度成長の一方の担い手だった外国企業投資は1~7月に約667億ドル(1ドルは約79円)と、前年同期比3・6%減った。7月は約76億ドル(同8・7%)減と減り幅を広げ、年間では5%以上減少する可能性が大きい。
中国商務省国際貿易経済協力研究院の白明副主任は原因をこう分析している。
(1)外資が投資先をベトナム、カンボジアなどの後発途上国に転換、ナイキ、アディダスなど大手外資が相次いで工場をこれら諸国に移し始めた(2)人民元高による投資コスト上昇(3)外資への特別優遇策の消滅(4)成長の減速予想-などだ。
加えて一人っ子政策で若年労働力不足が始まり、労賃が急騰。全国で環境破壊反対の住民運動が頻発、過激化していることも大きい。
例外は常に一歩遅れる日本企業だ。1~7月の投資は前年同期比19%増の47億ドルだが、尖閣諸島をめぐる反日暴動など日中関係の悪化で今後は減るだろう。
輸出も7月は同1%増と6月の11・3%から急減。1~7月累計は7・8%増だが最大の輸出先、欧州の経済悪化で、年間でも5%を下回る可能性がある。
こうして外資の流入が減る一方で、資本流出が静かに始まっている。4~6月の国際収支が714億ドルの大幅赤字を記録したことなどで、同期末の外貨準備高が650億ドル減り、3兆2400億ドルになった。
主な原因は(1)中国内の内外企業や個人が今後の人民元下落を見込み、取得外貨を元に替えない(2)不動産・株式バブル狙いなどで流入した投機資金が流出(3)党・政府高官一族らの不法資産の海外移転-などだ。
中国の外貨準備高は四半期ベースではアジア金融危機(1998年)時に減ったことがあるが、年間では93年から昨年までの18年間、右肩上がりで急増を続けた。
しかし世界景気の回復が遅れる一方、中国の生産コスト上昇は長期的、構造的要因によるもので、簡単に変えられない。それだけに外貨準備高も今年が大きな曲がり角を迎えそうだ。
こうした内外情勢や、秋の共産党大会と来春の全国人民代表大会(国会)を控え、2008年の世界金融危機時さながらの巨額の公共事業投資を求める声が、地方政府中心に強まっている。
中国は08年秋から4兆元(1元は約12円)の景気対策を打ち出して短期的にはV字回復を実現した。
しかし20兆元にのぼる銀行融資が不動産バブルと膨大な不良債権の山を築いたため、インフレとデフレの共存するスタグフレーションに陥り、先行き不安に輪をかけているのが現状だ。
この過ちを繰り返せば静かな変化をさらに加速し、数年内に体制を脅かす大きな政治・経済危機を招く可能性がある。
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