インターネット交流サイトのフェイスブックをやっている人なら、これがいかにすごい数字かが分かるだろう。今年4月にフェイスブック上に開設された北海道情報発信ページ「北海道Likers(ライカーズ)」は、友達に広めたいという意思表示の「いいね!」の数が、わずか4カ月弱で10万を突破した。編集部も驚くスピードと浸透度だが、その裏には北海道が大好きな北海道人による北海道を熱く見つめる取材活動があった。(札幌支局 藤井克郎)
「北海道Likers」はフェイスブックのユーザーに向けた媒体だ。写真付きの記事として掲載されていて、その対象は、定番の観光地からとっておきの風景、絶品グルメに掘り出し物のグッズ、さらには伝統の祭りやアイヌの風習と多種多様。最大で一日3、4本掲載されるが、記事1本1本についても少なくて4000~5000人、多いものでは1万5000人以上が「いいね!」ボタンを押している。7月下旬に10万「いいね!」を突破したページ自体は、約13万人に達した。
「正直申し上げて想像以上ですね。これだけのスピードで広まるとは思ってもいませんでした」と打ち明けるのは、「北海道Likers」の編集作業を行うネットイヤーゼロ(東京都港区)の取締役、倉重宜弘(よしひろ)さん(45)だ。当初の目標は3カ月で1万だったが、開設から1カ月ちょっとたった5月の連休明け辺りに目標に到達、6月末ごろから爆発的に拡散していったという。
実はこのページ、サッポロビールが北海道の経済活性化を目指して開設し、インターネットを活用した事業開発を手がけるネットイヤーゼロと共同で運営している。サッポロビールの本社は東京にあるが、発祥の地は札幌で、今も北海道本社として拠点を構える。北海道限定のサッポロクラシックは年々売り上げを伸ばしており、道民に広く愛されているビール会社だ。
「北海道ブランドを全国に発信していくのが弊社の使命だと思っている。でもメーカー色を出し過ぎてしまうと、広告宣伝と構えられてしまって見ていただけない。まずは観光と食を中心に北海道の幅広い情報を伝えていこうと、このページを始めました」と、北海道本社戦略企画部の清水周子さんは説明する。
記事をとりまとめてフェイスブックにアップしているのは東京にいる倉重さんらだが、情報を収集し、原稿にするのは、北海道在住のライターやカメラマンが行っている。当方の取材も札幌のサッポロビール北海道本社にライターの面々に集まってもらい、東京にいる倉重さんとはiPadを用いたテレビ電話のFaceTimeを通じてやりとりをするという、何とも今日的な手法になった。
その倉重さんいわく、ヒットの理由は「ライターさんにいいメンバーが集まったから」。現在は9人のライターが契約しており、それぞれ興味のある場所やお店、グッズなどを取材し、原稿を送っている。
以前は出版社に勤務していたという千葉孝子さん(48)は、4月の開設時から北海道Likersのライターをしている。知人から「サッポロビールがフェイスブックのページを作る」と聞いて、一も二もなく参加した。「サッポロビールがやるということに意義があると思った。地元に密着した企業が北海道を応援する媒体を手伝えるのなら、という気持ちです。北海道が大好きなので、たくさんの人に北海道のよさを知ってもらえる場を与えてもらって感謝しています」と声を弾ませる。
千葉さんによると、このところ目立つのが北海道Likersに載ったことでグッズや食べ物の売れ行きが急増することだ。それまで月に1、2個売れる程度だったものが、掲載された途端に完売したというケースもあるという。「取材先から、何人の人が来たんですよ、とダイレクトに返ってくる。取材に行くと、載りたかったんです、といわれることもあって、うれしいですよね」
同じくフリーライターの孫田二規子(ふみこ)さん(40)も、ダイレクトに反応が返ってくるのがいいという。「取材先もそうですが、読んだ人が『これ食べたい』とか『昔ここに行った』といった親近感を込めたコメントを返してくれる。江差から奥尻島に渡ったときに撮って保存してあった夕景の写真を載せたら、1万1000もの『いいね!』が来たんです。この手応えはほかの媒体にはない。何もかもが新しくて、夢中になります」
一方で、普段は取材活動をしていない人もライターとして参加している。宮下修平さん(30)は本業はデザイン会社に勤務しているが、ロックフェスティバルの「ライジングサン」の記事など月に1本ほどのペースで書いている。「自分の知識をもとに好きなことを書いているから、全く苦ではない。反響の大きさはある種の快感なので、これから本数は増えていくかなと思っています」
また、普段は広告の仕事をしているライター名、chikkiさん(39)は、北海道Likersをきっかけにフェイスブックを始めたという。手がけた記事はまだ10本に満たないが、「何時何分にアップされる、と相手方に伝えることもできますし、いろんなことが新鮮です」と満足そう。本業はシンクタンク勤務のライター名、GAKKUNさん(35)も「地方は発信下手なので、埋もれているいいところを発信できたらと思う。伝えたいものはたくさんあります」と前向きだ。
ネットイヤーゼロの倉重さんによると、記事を書きたいという読者からの声もぽつりぽつり寄せられているという。「今のメンバーの記事を見ると、みなさん個性的で、視点がいい意味でまちまちなので、飽きさせない。記事を爆発的に増やしていこうという計画があるわけではないが、今のところ札幌の人に集中しているので、もう少し道東や道北の人も集められたらいいかなと思っています。北海道は大きくて、しかもネタの宝庫ですからね」
7月下旬には英語版ページも作成し、1日4000人の勢いで「いいね!」が増えているという。近く中国語版も開設する予定で、全世界に向けて北海道の情報を発信していこうというわけだ。また北海道Likersで取り上げたグッズをネット販売するショッピングモールも近く始める計画だという。
「私は名古屋の出身で、親戚(しんせき)が小樽にいる程度ですが、この仕事に携わったことで北海道の魅力の幅広さを改めて実感しています。一方で、その魅力は十分に発信しきれておらず、ビジネスとしてまだまだ余地がある気がする。閉じられた道内マーケット向けの意識が強く、それってもったいないと思う。Likersを活用して、北海道の魅力をグローバルに広げていきたいですね」と倉重さんはその先を見据えていた。
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