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「そっか、からあげだ!」
「何が……?」
いきなり大声を上げた幼なじみに問いかけてみる。
「からあげは世界を救うんだよっ」
「…………」
……また始まった。
僕より一つ年下の幼なじみ、綾沙は小さい。
高校一年生なのだが、その身長は僕の胸辺りまでしかなく、はっきり聞いたことはないがとりあえず150cmはないらしい。
綾沙はいつもその小さい体を精一杯動かして話す。そのせいもあってか、中学生や小学生に間違われることも多々。
そのたびに機嫌をとるのは僕の役目になっている。
まぁ中身も子供っぽくからあげ実年齢の方が嘘じゃないの、とか思ってるけど言わない。
だって面倒なことになるのが目に見えてるし。
「からあげはすごくおいしいの。それをみんなが知って、それでからあげの美味しさに感謝すればみんな争わなくなると思うのっ」
「…………つまり?」
「からあげ食べたい!」
「最初からそう言いなよ……」
綾沙は本当によく食べる。それでも太らないから、よく羨ましがられている。
こうして学校帰りはいつも僕のお金で食べながらかえるのが習慣になっている。
「もうすぐ春なのに、まだ寒いね」
「あたし、春はあんまり好きじゃない」
「どうして?」
何か綾沙が嫌うことでもあったっけ。特に何もなかった気がするけど。
「夏は好き。素麺とか冷やうどんとかざるそばとかがおいしいし、色々なアイスも出るし。秋は一番好き。なんて言ったって“食欲の秋”だし。冬もお鍋とかおでんとか肉まんとかおいしいから。でも春はそういうの特にないもん」
「…………」
本当に食欲のかたまりだなあ。
おもわず苦笑がもれてしまう。
綾沙は本当に食べることが大好きだから、その楽しみを一番に考えるんだろう。
そして、そんな綾沙の性格を僕は悪く思っていない……というより、むしろ好ましく思っているらしい。
だから、いつもたかられるように食べ物をねだられても苦笑こそもれるものの、内心では楽しんでいるのだろう。
「ねぇ、からあげ~」
綾沙が僕の腕を引っ張り、コンビニの方へ足を向ける。
「はいはい」
———
——
—
「きょーはっカレーまんの日~。かっれーま~んの日ぃ~」
「ご機嫌だねぇ」
いつもと同じ放課後の帰り道。綾沙はとても分かりやすく上機嫌で、スキップまでしていた。
「だって見て!雪だよ、雪~」
そう。もう三月に入ったというのに、この日は雪が降っていた。春はなかなか遠いようだ。
「あたたかいものは寒い時の方がおいしいから、やっぱり冬がいいなー」
綾沙は思い込みが激しいところがある。
この分だと春になった時には気分が落ち込んだりしてしまいそうで心配だな……ふう、仕方ない。
「そんなに春はいや?」
僕が訊くと、綾沙はスキップを止めて少し俯いて答えた。
「うん……だって……」
「美味しい食べ物がないから?」
「うん……」
ほら、話をしただけでこれなんだ。
例え春にも美味しいものはあると言っても、これじゃあ駄目だろう。
「春になったら、桜が咲くよ」
「……?」
突然桜の話になったせいか、綾沙は不思議そうに僕を見上げる。
「そうしたらさ、花見に行こうよ」
「花見?」
「そう。で、その時は綾沙が好きな食べ物をいっぱい入れたお弁当をつくってあげる」
「本当!?」
「うん。どう? 春もよさそうでしょ?」
「うん!あたし、春も大好き!」
よかった。これで、綾沙の気も春の方に——
「でも、まずはカレーまん食べたい!!」
……まぁ、いいか。
僕は綾沙が笑ってくれるだけで満足だしね。
本当に、こういう時は自分の性格が嫌になる。
どうして途中で引けないんだ。
どうして言い方を変えられないんだ。
もうこれで部活もやめることになるかも…。
そこから、全部が崩れていくのだけは防ぎたい。
年に数回あるかどうかの頑張り時だろう。
がんばれよ、自分!
あと、あなたはメンタル弱すぎだよ!
少なくとも喧嘩売るような嫌みな質問を繰り返すなら最後まで耐えろよ!!
なんでそうなる!
自分ばっか可哀想とか思ってんじゃねぇぞ!
自分の言葉に責任を持てないなら確証があるような言い方すんじゃねぇ!!
ふざけんなよ、それが21のやることか、あぁ!?