癒右衛門 iEmon presents こころろぐ cocorolog

癒右衛門 iEmon presents こころろぐ cocorolog

旅する人々の美しい実体験を集成した小品文の数々が、あなたの心の奥深く染み渡ります。日々ゆっくりと旅する人々の歩数に合わせたペースで、あなたの心へお届けしております。よろしければ、あなたのご感想を読者の方々と共有してみませんか。ご感想を、お待ちしております。

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しあわせ ローマ バンコク ゴールドコースト


ローマの
via Barberini にある
フィットネス クラブ で

映画スターのタマゴとか
TVのキャスターとか
超目だつ奴らに
交じって

自称 "自主トレ"やって
大量に発汗したあとで

そのクラブ内にある
カウンター バーに
向かうと

顔なじみの
バーテンダーが

カウンターの上に
山積みされてる
オレンジの中から
2、3個手にとって
まるごと搾ってくれます。

目の前で出来上がる
グラス一杯の
この超フレッシュな
オレンジジュースを

Grazie, Luigi ! とか
Grazie, Carlo ! と
言いながら受け取って
ゆっくりと飲み干すと

Questa e la vita!
This is life!
っていう
シ・ア・ワ・セ!感が、
もう、自分のカラダ中に
シ・ミ・ワ・タ・ル~!のです。

このシ・ア・ワ・セ!感が
癖になり

いい汗を
掻きまくったあとの
あの搾り立ての
生ジュースを
我がカラダ中に
染み渡らせようと

気がつくと
いつの間にか
あのクラブへと
足が向いて
しまうのです。


この好循環が
クセになったあなたは

ローマ駐在のあと
日本に帰任して

横浜、桜木町の
ランドマークタワーにある
フィットネス センター
(これって、もう、
とっくになくなった?)
に通い始めるのです。

ガラス張りの天井が
スライドしながら
全開するプール。

そこで、ひと泳ぎしたあと
プールサイドにある
ジャグジーに
横たわりながら
夜空を見上げると

そこには
頭上に拡がる
ライトアップされた
摩天楼感覚の
みなとみらいのビル群。

ローマのクラブのように
搾りたての生ジュースを
飲めるカウンターは
ないけれど

日本のクラブでは
運動の前後の
約束事である
"ストレッチ"が
あるのです。

大学の体操部出身らしき
お兄さんやお姉さんが
音頭をとってくれる
パターン化した
ストレッチ。

これが自分ひとりでも
できるようになると

ストレッチしまくっている
自分のカラダ中に
あのクセになる
シ・ミ・ワ・タ・ル~!のです。



そして、今度は
微笑みの国の
バンコクへ行くあなた。

あなたが住みつく
コンドミニアムと
同じビルの中に
ジムやプール、サウナが
いつでもいらっしゃい
と言わんばかりに
整っています。

そこで、当然
これまでの
クセになるシ・ア・ワ・セ!感が
花咲きます。

自分の部屋で
これから、フィットネスするんだ!
という格好に着替えて

早朝でも真夜中でも
好きな時間に
エレベーターで
ジムの階まで降りると

横浜で身につけた
ストレッチで
シ・ア・ワ・セ!感
いっぱいになり

そのあとは
マッチョな身体を
作り上げる機器の数々や
プール、ジャグジー、サウナと
滞りなく一巡し

エレベーターで
自分の部屋に
戻ったとたん、

無意識のうちに
自分がローマの
Luigi や Carlo になって
あのシ・ア・ワ・セ!感に
満たされる
フレッシュジュースを
作り出しているのに
気がつきます。


そして、やがて
あなたは
シ・ア・ワ・セ!感いっぱいに
させてくれた
バンコクをあとにして

オーストラリアの
ゴールドコースト、
サーファーズパラダイス
へと向かいます。

そこで、あなたは
なぜか地元の
豪州人たちに混じって
裸足で
早朝の海岸を
闊歩しだすのです。

運動することに
とりつかれてるような
豪州人たちと
同様にとりつかれて
早朝だけでは
物足りなく
夕暮れ時も
見事に拡がる海岸線 を
ただただ
闊歩しまくります。

裸足で
砂の感触を
味わいながら
心地良い波の音に
耳を傾け

陽の光と潮風を
全身に浴びながらの
ビーチ ウオーキング。

そんな南半球の海辺から
コンドミニアムに戻って

ストレッチ、シャワー、
そして、自作の
フレッシュジュースを片手に
ベランダに出ると
心地良い潮風と
目の前に拡がる大海原...。


さあ、思いっきりカラダを動かして
そして、そのあとに
カラダ中に染み渡る
シ・ア・ワ・セ!感を味わって
またまた
カラダを動かして
またまた
そのあとのシ・ア・ワ・セ!感を味わう、
そんな好循環を
一緒に作り上げようよ!



(完)




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別れ 写真 出逢い 音楽 ドライブ


夜明けとともに
クロアチアの
カルロバックの
ホテルを
出発しました。

アドリア海からの
強風が
海岸沿いに走る
わたしの車を
容赦なく
叩きのめすように
吹き荒れています。

人家や人影が
まばらだった
モンテネグロを
走りぬいて

コソボの
プリシュチナに
近づくに従い

道沿いには
大小の荷物を
持った人影が
増えてきました。

おそらく、
日が沈むまでに
目的地に着けば
いいというのでしょうが

それでも、やはり
仕方なく歩いているらしく

後方から車の音が
迫ってくると
決まって振り向いて
乗せてくれと言わんばかりに
手を大きく振り回します。

車は相乗りさせるのが
当たり前といったことらしく
行き交う乗用車は
人と荷物を
ギリギリまで
乗せています。

ヒッチハイカーによる
暴行強奪事件を
耳にすることもあり
彼らの傍を
そのまま走り去るのですが

そのたびに、わたしは
何かしら変な罪悪感に
襲われてしまいます。

そんな厭な
雰囲気の中を
運転し続けていると

キャリー オン サイズの
バッグの上に
腰掛けている
ひとりの女性が
遠く前方に
見えてきました。

わたしの車が
近づいてくるのに
その女性、
手を振ろうとしません。

走り過ぎながらも
何となく気になって
バックミラーで
彼女の姿を
追っていたわたしは
どうしても
そのまま素通りできずに
Uターンしてしまいます。

車が止まる気配を
感じた彼女は
運転席のわたしに
目を向けます。

その目は
わたしがどんな男なのか
見抜こうとしているかのようです。

わたしは軽く微笑みながら
「You wanna hop in?」
と言葉をかけると
無表情のまま
うなづきながら
立ち上がりました。

車から降りたわたしが
彼女のバッグを
トランクに入れると
彼女は後ろの席に
座り込みました。

車が動き出しても
後席の彼女は
無言のまま
前方を
見つめ続けています。

「重いバッグだね。
あの重いのを引きながら
歩いて来たの?」

と訊ねるのですが
彼女は無反応のままです。

どうしたものかと
今度はドイツ語で聞いてみると

彼女、やっと、うなずいてくれます。
おそらく、多くの東欧の人たちが
そうするように彼女も
大学や出稼ぎでドイツに
住んだことがあるのでしょう。

行き先を訊ねると
小さな港町、ミロットの手前、
と答えます。

歳は30歳前後、
無表情なままなのが
気になります。

わたしは彼女に
話しかけるのをやめて
イ ムジチ四重奏団の曲を
低めに流しながら
運転に集中する
ことにしました。

しばらくして
Francesco Manfredini の
Concerto in C が
流れ出したときのこと、

それまで黙りとおしていた彼女が
口を開きました。

曲の流れに合わしたように
おだやかな口調です。

「ありがとう...
ほんとに...
わたし
引き返そうか
それとも
このまま進もうか
迷っていたの」

そう言う彼女に
わたしが
うなづくと

彼女は
走る車の中を
後ろの席から
助手席に移りながら
話し続けます。

「トリエステで
彼が迎えに来てくれる
ことになっていたのに...
彼、約束のホテルに
来なかった。

電話すると
彼、家にいたの。

"どうしたの、タリック?
来てくれないのは
どうしてなの?"

"ホテルにメッセージ
置いたよ。
受け取ってないのか?"

"そんなの知らない。
タリック、どうして
来てくれないの?
......
黙ってないで
教えて、ね..."

"......
キミには言ってなかったけど
僕には昔から
親がどうしても
俺に結婚しろっていう
女の子がいたんだ。

その子と結婚しないと
遺産を相続させないと...

いつまでも
グズグズしている俺を見て
親が勝手にその子との挙式を
決めてしまってたんだ。
一週間後に挙式なんだ。
...
ファティメ、ごめんね..."

"そんな..."

わたし、耐えられなくなって
電話切ってしまったの。

でも、そのあとすぐに

わたし、彼に会わなくっちゃ、
会って...

と思って

気がついたときには
ホテルを飛び出して
バスに飛び乗っていたの。

必死でバスを
何度か乗り換えて
プリシュティナ行きのに
乗り込んで
段々彼が住むところが
近づいてきて...
怖くなってきて...
しがみつこうとしてる
そんな自分がイヤになってきて...

バスを停めて、降りて、
呆然としていたところに
あなたが現れたの」

「...引き返そうか、それとも
彼を取り戻そうか、
迷っていたんだね、ファティメ。

名前、ファティメ っていうんだね?

あと30キロで
彼の住む
ミロットだよ...

これからの自分、
どうしたいのか
決心ついた?」

彼女が
小さくうなづいています。

「お願いがあるの。
わたし、ミロットに着いたら
写真を撮る。
そのとき、あなたも一緒に
その写真に入ってほしいの」

わたしは
一体彼女が
何を言っているのか
理解できないまま
ミロットに着くと

やっと一軒の写真館を
見つけます。

店の中に入るなり
ファティメが
その写真館の主人に
向かって

「わたしたち
ふたりの写真を
撮ってください。

構図はわたしが決めます。

わたしたち、
上半身、
裸になります。

カラーじゃなくて
白黒の写真で
お願いします。
大丈夫ですね?」

しばらくして
準備が整うと
彼女の言うがままに
わたしも上半身裸になって
カメラに向かいました。

そうして撮った
一枚の写真。

上半身を
露わにしながら
無表情のままで
目を大きく見開いて
カメラを見つめる
ファティメが
写真の左半分に
大写しされて、

その右半分の後方には
上半身裸のわたしが
彼女のうしろから
同様に無表情のままで
彼女をジッと見つめている姿が
小さめに写っています。

この一枚の写真を
手にして
写真館を出ると
ファティメが
わたしの目を
しっかりと見つめながら

「ありがとう。
わたし
この町の郵便局から
この写真を
彼宛てに出すの。

封筒には
投函した場所と日付が
はっきりと読み取れるように
消印してもらうの。

それで

彼とのことは
おしまい。

わたしは彼のこと
きっぱりと

忘れるの」

こう言い切ると
彼女は初めて
わたしに微笑みかけます。

それは、まるで
中世の宗教画
に描かれた
聖女の微笑みのように
まぶしく輝く微笑み。

やがて
郵便局から出てきて
わたしの車に
乗り込んだ彼女が

運転するわたしの
太腿に
そっと手を乗せながら
囁きます。

「本当にありがとう...
さあ...わたしを連れて行って...
せめて...今夜だけでも...」

ふたりの車の中には
イ ムジチが奏でる
Giuseppe Torelli の
Concerto in G minor が
やさしく流れ出します。


(完)




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ベルリン トルコ 交通事故 和歌山 串本


若いときは
車でよく接触事故を
起こします。

わたしも
その例外では
ありませんでした。

その中でも
忘れられないのは
学生だったわたしが
東西に分裂されていた
ベルリンで起こした
初めての事故でした。

学校帰りのわたしは
小さな交差点を
左折しようと
ハンドルを
切ったとたん

気がついたときには
前方から直進してきたバイクが
わたしの愛車の側面に
ぶつかっていました。

愛車の脇で
バイクと共に
横たわっていたのは
ジーンズ姿の
青年でした。

上唇から
出血している
ようでしたが
よく見ると
鼻血だと
わかりました。

横たわったままですが
怪我はしていないように
見受けられます。

いつの間にか
事故の現場の周りを
取り囲むように

通りがかりの人たちや
車を止めて降りてくる人たちが
興味津々な目つきで
集まり始めます。

倒れたままの青年に
ハンカチを手渡すわたしが
ぶつかった車の運転者だと
わかってきたのでしょう、

周りの人たちが
厳しく非難するような目つきで
わたしを見つめています。

このままでいると
わたしは
この人たちに
警察へ連れて
行かれるんじゃないか、
と19歳のわたしは
おどおどするばかりです。

そのとき
ひとりの青年が
周りの人々を
押しのけて
呆然としているわたしに
近づいて来ます。

「日本人ですか?」

そうです、と答えるわたしに
彼は口元でやさしく微笑むと、

周りの人たちに向かって

「これ、たいしたことない!
鼻血を出しているだけだよ、彼は!
ぼく、一部始終見ていた!
バイクの彼、かなりスピード出してたよね!」

そう叫ぶように言い終わると、
今度は小声で私に向かって、

「今すぐ、彼に100マルクぐらい握らせなさい。
さあ、急いで...」

と耳打ちします。

わたしがポケットから
紙幣を取り出そうとするのを見て、

「バイクも壊れてないし、
バイクのスピードの
出し過ぎだったのも
はっきりしてるし、
もう、これで終わり!
さあ、もう、みんな
見物は終わり、終わり!」

と彼が大声で
叫び始めると

野次馬たちが
次から次へと
その場から立ち去り始めました。

青年も
わたしから100マルクを
無言で受け取ると
バイクが無傷のままであることを
確かめてから
走り去りました。

現場に残ったのは
事故を取り仕切ってくれた
彼とわたし。

その彼も

「良かったね。
これ、1890年9月16日、
和歌山、串本、紀伊大島への
僕からの御礼だよ!
じゃ、Take it easy, my friend!」

と英語で言うなり
その場から消えてしまいました。

まだ動揺し続けているわたしは
彼への御礼の言葉を忘れたまま

とにかく現場を離れようと
車を発進させます。

振り出した冷たい小雨が
フロントグラスを濡らし始めます。

やがて、信号で止まって
左右に規則正しく動く
ワイパーを見つめていたわたしは
そこで、初めて気がつきます。

...助けてくれた彼は...

オスマン帝国時代のことを言ってたんだ!
あの明治に起きた遭難救助のこと...
エルトゥールル号の遭難救助のことを言ってたんだ!
だから、和歌山とか串本とか紀伊大島とかって...!
ということは
彼はトルコの人だったんだ。
そうだったのか!
あの遭難救助事件の御礼、と
彼はわたしに伝えたんだ...!

後ろの車が
しつこく警笛を
鳴らしているのが
聞こえてきます。

我に返ったわたし。

でも、なぜか
わたしは自分の車を
動かそうとしません。

動かせません。

後ろの車から
ドイツ人のおじさんが
降りてきて
わたしの車のウインドーを
叩いています。

そのおじさんに
顔を向けるわたし、
そのわたしの目には
涙があふれ出てきます。

...ありがとう、トルコ!
ありがとう、トルコの人たち!
あのときの日本人の熱い気持ちを
いつまでも忘れることなく
今でも迷うことなく
その恩返しまでしてくれる
トルコの人たち、ありがとう...!

そして、和歌山のひとたち、ありがとう...!


わたしは熱い涙をぬぐうと
車から降ります。

目の前には
あのあきれ顔の
ドイツのおじさんが
青い目を
大きく見開いたまま
立ちすくんでいます。

わたしは
微笑みながら
そっと彼の手を握ると

ありがとう...

と、ひとことと発します。

あっけにとられているドイツのおじさん。

わたしは車内に戻り
ゆっくりと愛車を発進させます。

ウィンドー越しに
何かを叫び続けるおじさんが
だんだんと後ろへと
遠のいていきます。


(完)




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奨学金 乗馬 獣医 細菌 皮膚 オクラホマ 


彼女の父は
獣医学の
大学教授の職から
家畜業に転向し
牛肉の精肉会社を
立ち上げて

それを州一番の
収益を上げるまでに
成長させながらも

自家用機である
セスナの操縦を
趣味としていました。

そして、彼は
もうひとつの趣味である
乗馬を週末に
とことん楽しむために

自宅がある広大な敷地内で
一頭のアラブ馬を
放し飼いにし

自分が獣医となる
きっかけとなった
馬への愛情を
注ぎ込んでいました。

そんな父親を観て育った
一人娘のKay (Katherine) も
幼い頃から乗馬が大好きな
女の子でした。

彼女は、州立大学の
医学部を卒業すると
オクラホマ州の大学付属病院で
インターンを終え

やがて、そのまま
大学の研究所で
細菌学の博士号を
取得することになります。

両親が住む州に
戻らなかったのには
ある理由がありました。

オクラホマ州で
恋に落ちたからです。

彼女にとって
初めての恋でした。

この世で自分を
一番熱い想いにさせる
乗馬への気持ちを超える
灼熱の恋でした。

その恋の相手は皮膚科医でした。
ただ、彼は
ユダヤの家系出身だったのです。

彼女は、自分の父が
純粋なドイツの家系出身で

ユダヤ系に対して
強い嫌悪感を
日頃から持っていることを
重々知っていました。

しかし、彼女は意を決して
彼を両親に会わせ
結婚することを伝えます。

父親は、その衝撃に耐えながら
将来、ユダヤ教の
息子となるかも知れない青年を
受け入れることが出来るのか、
最初から本人と
正面から向かい合いました。

その青年を
心から気に入るまでには
それほど時間が掛かりませんでした。

自分たちの娘が
結婚すると選んだ男を
気に入れば気に入るほど
両親、とりわけ父親は
娘と離れて住んでいても
いつでも愛する娘を
身近に感じるようになりました。

半年後、Kay は彼と結婚します。

大学の細菌学研究所で
次第に名声を得だした自分を
惜しみなく支えようと
結婚を機に開業医となった夫に
連れ添う彼女の人生は
順風満帆。
誰もがうらやむもの
と思われていました。

ところが
悲劇が突然襲いかかります。

妻に負けないほど
乗馬に魅了された夫と共に
休日にはふたりで
愛馬に乗りながら過ごすことが
何よりの楽しみでした。

その日も、早朝から
愛馬2頭を
自宅がある大牧場内で
乗り回していました。

いつもの小川を
いつものように
渡り始めたときのことです。
川底にKay の愛馬を驚かす
何かが潜んでいました。
突然、目を大きく見開いたまま
暴走し出す愛馬、
それに必死にしがみつこうとするKay。

それは、あっという間の出来事でした。

投げ飛ばされ、
地面に叩きつけられ、
不自然な屈伸状態で
横たわったままな妻。

即死であったことを
後から走り寄った夫は
一瞥で悟ります。


残された両親と夫。

やがて、彼等はその後
Kay への想いを込めて
それぞれに大いなる行動を起こします。

Kay の父親は
自宅の倉庫を
小さな格納庫のように増築し
自分ひとりで小型飛行機を
組み立て始めます。
数年後、完成した
自家用飛行機に
Katherine と命名し、
その愛機と共に
大好きな大空へと
飛び出します。
愛機 Katherine が
月に2、3度、
大空へ羽ばたきます。
その後席では愛する妻が
静かに座っています。

Kay の夫には
残された子供がいませんでした。
そこで、彼は
所有していたすべての
不動産を売却後、
彼の両親から相続される
資産のすべてを担保に
銀行から資金を集めます。
そして、その資金を基に
Kay が首席で卒業した大学に
新たな医学部奨学金基金を
立ち上げたのです。

彼女と彼のふたりの名前が併記された
その奨学金基金は
今でもたくさんの医学生たちを
支援し続けています。


(完)




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ドイツ ベルリン 壁 フランクフルト


フランクフルト国際空港から
車で南に10分ほど走ると
ジーハイム(Seeheim)という
小さな町があります。

1989年の初冬
私はこの町の丘の中腹にある
国際会議場でのセミナーに
参加していました。

その日の日程も終わり、
施設内にあるカフェテリアで
各国からの出席者たちと共に
ビールや食後酒などを
楽しんでいたときのことです。

突如、
放映中のテレビが
通常の番組を取りやめ
ベルリンの壁付近の映像を
映し出しました。

そこには
驚きの場景が
生中継されています。

なんと
東ベルリン側から
たくさんの人々が
歓喜の声を上げながら
西ベルリン側へと
歩き始めています。

時計を見ると
22時43分、
もうすぐ11月10日へと
日付が変わろうしています。

そして誰ともなく
東西ベルリンの両側から
多くの人たちが
ベルリンの壁によじ登り
ハンマーなどで
壁を壊し始めます。

やがて
カフェテリア内にいた
西ドイツ国内からの参加者たちが
電話をかける、と言って
部屋に戻り始めます。
当時は、まだ、携帯電話が
世に普及する前のことでした。

私も
Brigitta に連絡しないと...
と自分の部屋へと
急ぎます。

部屋のドアを開けると
電話が鳴っています。

Brigitta?

受話器を取り上げ
耳にあてると
私の名前を呼ぶ声が聞こえます。
Brigitta です。

「わたし...わたし...」

彼女が、泣いているのがわかります。

「Brigitta、ハンスとは連絡とれてるの?」

「ううん、まだなの。
わたし、Checkpoint Charlie へ
行ってみようかと思うけど、
どうしよう?
どうしたらいいの...
行ってもいい?
教えて...」

「キミの
ホントの気持ちのままに
したらいい...」


Brigitta は昔
あのベルリンの壁を超えて
射殺されることなく
西ベルリンへと
無事に逃げ込んできた
数少ない脱走者のひとりでした。

数年前に
私が居たアパートメントの
隣りに住む
彼女の西ベルリンの親族に
引き取られてきました。

伯母と一緒に作ったの
と言っては
ドイツの手料理を
大皿に盛って
ひとり暮らしだった私に
届けてくれるのでした。

やがて
私たちは一緒に
公園を散策したり
ジョギングを
するようになり

ふたりは
愛し合うように
なります。

そんなある日
私は
以前から
興味があった
彼女が生まれ育った
東ベルリンへと
車で向かいました。

当時、西ドイツ国籍以外の
外国人だけが
いつでも何度でも
東独に入国できていました。

ただし、
Checkpoint Charlie での
チェックは想像以上の
厳しさでした。

特に東ベルリンから
西に帰ってくるときの
チェックの念の入れ方は
呆れるほどでした。

車のトランク内はもちろん
エンジンルームや
シートをすべて取り外しては
不審なものがないか、
チェックします。

モップ棒の先端に
鏡をつけたようなものを
何度も車の下に
差し込んでは
車を改造して
脱走者を隠して
出国しようとしてはいまいか
と異様なほどまでに
取り調べるのです。

格安の食料品や
珍しい日用品が
手に入ることもあり

何度か東西ベルリンを
行き来する私を
見ていたBrigitta が

ある日、私に
一通の手紙を
託しました。

それは、
彼女から
東ベルリンに住む
ハンスという青年への
ものでした。

その青年が
彼女にとって
特別な人であることは
後日彼女の話からも
想像していたとおりでした。

西ベルリンからの
郵便物は向こう側で
勝手に中を検閲されたり
場合によっては破棄されます。

安全確実に
届けるためには
東ベルリンで
切手を購入して
東ベルリンで
投函するのが
常識となっていました。

その日から
私は彼女だけの
郵便配達人に
なりました。

ハンスからの便りが
一通も届かなくても
彼女は手紙を
書き続けました。

半年も経とうとしたころ

「あと1年待っても
ハンスがこっちへ来れなかったら
わたし、彼のこと、忘れる...

これ、
あなたに投函していただく
彼宛の最後の手紙なの...」

と言って
彼女はいつもより
厚めの手紙を
私に手渡しました。


そして今
彼女は
電話の向こう側で
受話器を握り締めながら
私からの返事を待っているのです。

ベルリンの壁の崩壊と共に
彼女にハンスへの想いが
よみがえってきているのが分かります。

再び彼女の声がします。

「どうしたらいいの...
行ってもいい?
教えて...」

私は繰り返します。

「キミの
ホントの気持ちの
ままにしたらいいんだョ...」


電話の向こう側で
彼女が次第に遠のいていくのを
私は感じ始めています。

やがて
受話器からは
カチッと小さな音と共に
不通状態となった機械音が
空しく鳴り続けます。


(完)




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