60代の女性患者K様。在宅療養されていたが、症状が進行し緩和ケア病棟へ入院された。入院時にも、最期まで在宅療養にするかどうか迷われていた。
コロナ禍で面会が自由にできないことも理由としてあり、特にご家族の方が在宅を望まれていた。
K様本人が、やっぱり家に帰りたいという希望があったときに、すぐに在宅に以降できるよう、訪問診療の面談などの準備はすすめていた。
しかし、K様は日に日に衰弱がすすんだ。
家族に迷惑をかけてしまうからと、最期まで病院で過ごすことを決断された。
当病棟では、特別面会許可者2名まで、1日に2回までの面会を許可した(緊急事態宣言後より)。
2名に加えて、看取り期には3名まで。
家族は、夫、息子2名、姉2名に決まった。
家族内での選別。
決まるまでも、すったもんだあり、毎日カンファレンスで話し合った。
院内の感染管理も守りたい、ご家族の思いも分かる。日々話し合い、お互いに譲歩していく。
他の親戚や友人はリモートで対面された。
看取り期の判断も難しい。
どうしても会いたいと、泣き落としで強引に病棟まで来られた家族もいらっしゃった。特別面会許可者以外の面会者を断ると電話口で責められ、面会許可者の面会時には目も合わせず「断ったんですよね。もう時間はないのに。状況的にしょうがないのは分かってるけど、命に関わることなんですよ…。」
私たちにも、何が正解かは分からない。
しかし、他の患者さん、看護師、看護師の家族の命も守らなければならない。クラスターの発生はなんとしても避けたい。
密にならない、換気をするなど、できる限りの感染対策を行う日々。プライベートでも、外食や不要な外出はしないなどの制限をかけている。
日々板挟みになり対応する看護スタッフも疲弊していた。
K様は、そのような状況を申し訳なく思っており、看護師への気遣いの言葉に、わたし達は救われていた。身体的にも精神的にも辛い状況にあるのに、八つ当たりすることなく立派に耐えていらっしゃった。
日々付き添われた夫からも、看護師を信頼しているというお言葉を頂けた。
とうとう身の置き所のない(鎮痛薬だけでは緩和できない)状況となり、鎮静薬を使用することになった。鎮静薬使用時には、ご家族5名をお呼びし、2名ずつ交代で面会していただいた。
その際、前もって撮影していたK様からご家族へのビデオレターも確認された。
K様は覚悟されていた。しっかりと旅立つ準備をされていた。鎮静薬を開始する前日、1番近くで見守っていた夫に、K様は聞いた。「もう治療しなくてもいい?」
夫「もう十分がんばったからね。」
面会できていないご家族は、本人の日々の様子が分からないから、気持ちが追いついていかないのだろう。しかし、本人は家族へ気遣う気力はなく、家族の思いを受け止めるのも辛く余裕がない状況であった。家族が面会していても会話が辛いから、ナースコールを押し、家族を遠ざけた。
入院時しか会っていない姉。最後の面会時に表情固く病室の隅に立っていたが、担当看護師の声かけでK様の足を泣きながら摩った。
鎮静薬を使用した翌日に、K様は旅立たれた。
最後は、ご家族それぞれから感謝のお言葉をいただき見送った。