夫はよく私にプレゼントをくれました。
誕生日、クリスマスに加えて、私をひどく罵った翌日には、決まってショッピングに連れ出されました。

行くのは大きなショッピングモールやアウトレットモール。
なんでも欲しいものを買っていいよと言われますが、その言葉を鵜呑みにしてはいけません。

ゆっくり欲しいものを選ぼうものなら、夫の機嫌はどんどん悪くなります。
お店のはしごも、せいぜい三軒まで。
たいていは一軒目で夫が「これいいじゃん!」
と言ったものをあたかも自分も同じ意見だったかのように喜んで手に取らなければなりません。

その「これいいじゃん!」が、例え全く興味のないスポーツブランドのスニーカーであってもです。

私が普段一切スニーカーを履かないことなど、夫はどうでもいいのです。
それよりも自分が愛する(本人は本気でそう思っている)妻へのプレゼントを選んであげたという事実で、気持ちは高揚するのです。

それだけでいいのに、妻である私が、本気で何を買ってもらうか選ぼうとするなんて図々しいにも程があるのです。
だから初めは「ゆっくり選びなー」などと寛大な台詞を口にしますが、10分も経たないうちにあからさまにイライラし、無口になります。

私は慌ててその店で適当な「夫が喜びそうなもの」を見繕います。
私が欲しいものではありません。
私は自分がどれを欲しがれば夫が満足するのかを頭をフル回転させて考え、「これが欲しい♡」と上手にねだってみせては、夫の「妻のわがままなおねだりを聞いてやる器のデカイ俺様」という自己愛を存分に満たし、そしてうまく立ち回れたことに自分自身も満足するのです。