ずっと前に観たテレビのトークショー。「時代劇は初挑戦ということですが,難しかったですか?」と聞かれた女優の答え。
「その時代には生きていなかったので難しかったです」。
インタビュアーだって視聴者だって,その時代には生まれていませんから...。
映画やドラマは非現実的な設定が多い。宇宙には行ったことがない。戦隊ヒーローにも会ったことがない。魔法も使ったことがない。体験したことないなら難しいで済ませていい...プロならもう少しましな答えができんのか。
先日,ヘルシークッキングという料理クラスに行った。アメリカ人講師が材料一つひとつの栄養素について参加者に問う。
で,「ショウガはどういうところがいい?」という質問に張り切って挙手したアメリカ人はこう答えた。
"Good for health!"
「健康にいい!」いや,だからどう健康にいいのかという質問なんですが...。日本だと失笑の対象になりそうだが,発言は自由だから。いろんな人がいてみんな慣れているせいか,表情ひとつ崩さない(と思う)。いちいち他人のことを気にせず尊重する,それがアメリカ。
10年ほど前,アメリカ人に日本語(作文)を教えていたことがある。日本語でブログを書きたいという生徒さん。レッスンの3日前までに日本語で書いた作文を送信してもらっていた。文法や漢字,言葉の使い方は置いといて,その内容。
「中国に旅行に行きました。万里の長城に登りました。景色がきれいでした。おいしい料理を食べました。中国人は優しくて楽しかったです」。
...添削しようがない。大人の生徒さんなので,「具体性も臨場感も全くないし,つまらない。本当に中国に行ったのかさえ疑わしい薄っぺらい内容。これならわざわざ書くまでもない。もっとあなたにしか書けない内容があるでしょ」とハッキリ言った。全部書き直すように求めると,翌週ものすごくおもしろい文章を送ってきた。
日本人向けの塾で国語を教えていた時のこと。小学3年生のクラスで,今日は作文を書きますと言った瞬間,一斉に挙手した児童。
「題名は2(3)マス空けます!」,「名前の下は1マス空けます!」,「姓と名前の間も1マス空けます!」,「行を変える時も,1マス空けます!」,「会話文の時は行を変えます!」,「カギカッコも1マスに入れます!」,「点や丸も1マスに入れます!」,「丸とカギカッコは同じマスに入れます!」...とまあ次から次に。
この1マス&改行騒ぎを収めるのにどれだけ時間がかかったことか...わずか2時間(50分×2)しかない作文の授業ですよ。作文の授業イコール原稿用紙の使い方?
作文って,形式重視で字でマスを埋めさえすればいいんです。内容は二の次三の次。個別指導は大変だし時間がかかるので,カギカッコの使い方や漢字が使えていれば合格点。全部書き直し,とか個人レッスンでしかできませんね。
うちの学校区は昨日が登校最終日。このながーい夏休みに,外国暮らしの子どもに本気で日本の勉強をさせたいのなら,作文でしょう。作文をおいて他にない。
夫は小説家なので,「ペンは剣よりも強し」を証明する場面を幾度となく見てきた。It's not just about what you say, but HOW you say it.(何を言うかじゃなくて要はどう言うか)なんだ,が口ぐせ。日々の生活の問題解決も,お金ではなく言葉によるところが大きい。
形はいくらでも後で整う。言葉は,一生の財産になります。
安い食材を使い短時間で見栄えの良いものが作れることはコスパが良さそうだけど,それがおもてなしのパーティなら。日々の食事は見栄えではなく健康の方を重視される。表面ではなく,中身。
子どもにはダイカットマシンを回してキレイに紙をカットするクラフトではなく,自分でどう切るか考えてハサミを使うアートを学んで欲しいでしょう?作品の写真を撮り発信することで,子どもに上手下手という見栄え重視の価値観を押し付けてはいけない。
誰もが言っている当たり前のことじゃなく,自分にしか書けない文章を書いて欲しい。自分にしか作れないもの。そういう人がおもしろいし,会ってみたいと思う。