テレビジャパンで放送されているドラマ「仮想儀礼」がおもしろい。実に!とっても!非常に!甚だしく!
どこがおもしろいかと言うと「全部」なのだが...
キャスティングとその演技力。主人公の二人はもちろん,ずば抜けている。有名なアイドルやお笑い芸人が出ていると,「やっぱりスタイルが良くかっこいい」とか「あまり老けておらず今でも美しい」と容姿が気になる。「演技初挑戦でよくがんばっているな」とか「歌手活動からシフトするのね」,「コンビの相方は最近見ないな」,「視聴率と売出しのために主役に起用されたのだ」...と,ひたすら他のことを考えてしまう。雑音。演技が下手でも100歩譲って楽しむように強制させられている。視聴者が妥協し,おもねるのが当たり前になっているドラマは,ストレスに感じる。40年前に人気のあったモデルを主役に据えた話題作りのためのドラマは要らない。つまらないストーリーを隠すために,有名人を起用しているんだなと思う。演技力の高い実力のある俳優に,ホンモノのドラマを見せて欲しいのだ。
「仮想儀礼」は,キャラクター設定と展開が非現実っぽいのに意表を突くリアルさが混在していて,この絶妙な矛盾がいい。これぞ,ドラマ。所詮作り物だと言わせない,圧倒的な脚本。突っ込むスキも一切与えない。
テンポが良く,一時間のドラマは息つく間もないほど。中身が濃く,短距離走のスピードで駆け抜ける一時間である。コーヒーでも飲みながらゆっくり観るドラマじゃない。ストーリーは次々に予想外の方向へと進んでゆくので,コーヒーカップに目を落とす一瞬すらも与えない。
音楽や効果音も怪しげで,これだけでも笑ってしまう。
ジャンルはコメディらしいが...笑いあり涙あり,という軽々しいキャッチコピーには収まりきれない。さあここは笑うところ,ここで泣かないのはおかしいと強制してくるドラマも多いが...。
セリフと心の声を,役者が見事に表現し切っている。モヤモヤした言葉になりにくい心情が的確に描写されているので,腑に落ちる。特に,主人公二人の戸惑いの表情が良く,ストーリー展開を担っている。
人をだます主人公二人組の,言動の一つひとつに共感してしまうのは,人物の背景が丁寧に描かれているから。
カルトにハマってしまう信者の気持ちもわかるように描いてあり,現実社会における元信者や宗教二世の理解の助けになると思う。それにしても,ニセ教祖だとわかっているのに,この主人公,信者になってしまいそうなカリスマ性がある...。
1話からおもしろく,加速度的に面白さが増している。7話も見応えがあったが,一昨日の第8話(全10話)も...録画をもう一度観る。いや,3回くらい観たい。
先日の「クローズアップ現代」のホストの売掛金をテーマにした放送は...本当に気分が悪くなった。18歳くらいの女性が,ホストに借金して売春させられ,行方をくらます。店の組織的な犯罪にはめられるのだ。
マインドコントロールの仕方は店のマニュアルもあるというが,それが目的だから当然存在する。「あなたは特別だ」と言われて疑わない人を見極め,貢いでくれる金額も見積もることができるという。
昔の客層とは異なり,今はアイドルの推し活をするような軽い感覚で始まるそうだ。
日本で知人のアパートに行った時に,本棚に占いの本がたくさん並べられていて驚いた。「動物占い」にハマっていたり,スピリチュアル・スポットを巡ることが好きな人も...。気づけば,朝の情報番組では星座占いをやっている。忙しい朝の時間に,今日のラッキーカラーなんかを見る人が多いのかと,ただ驚いた。
「何かのご縁」とか「あの人は持ってる」とか...そういうこともある,たまたまでしょと思うけれど...。ドラマでは,こういう心理もきちんと描かれている。
マルチ商法も,マインドコントロールされて勧誘する側になって組織を広げていく。
苦しい時に何かに頼りたい,居場所が欲しい,それは人間として当たり前のこと。
「仮想儀礼」は残すところ,あと2話。ニセ宗教が破綻へと向かうところがどう描かれ,主人公2人がどう変わるのか。
人の弱みに付け込む犯罪はなくならない。組織のカラクリ,作り手の意図を知ることが大事だ。