日本食品店のレジでのこと。日本人の店員さんに「こんにちは」と声をかけられたので,私も「こんにちは」と返した。
すると,店員さんは「(日本人の方に)こんにちはのあいさつを返してもらえないんですよね…」と。
うーん…店員さんの気持ちも日本人のお客さんの気持ちも,どっちもわかるような気がする。私も一瞬ひるんで,「…こ,こんにちは」と返したから。
日本のレジだと「いらっしゃいませ」のひと言で,商品のスキャンが始まる。いらっしゃいませに返す言葉は「お願いします」だろうが,果たして自分は口に出していたか。
アメリカだと”How are you?”というように「こんにちは」のあいさつが疑問形なので,当然何か答えなければならない。さらに「あなたは?」と聞き返さなくてもFineくらいは誰でも答える。そして,Did you find everything you were looking for?(品物は全部おそろいですか)とまた聞かれるので,また答える。Have a good day.というお別れの言葉に対しても,無言ということはあり得ない。相手とは対等で,言葉は返すものだと教えられてきた。レジ係がアメリカ人だと自然に会話モードに入るのだ。
日系のスーパーだと,この会話モードが完全にOFFになる。日本のレジで聞くのは「いらっしゃいませ」・「〇円お預かりします」・「〇円のお釣りです」・「ありがとうございました」と大体決まっている。預かり金額やお釣りに関してはミスのないように,発声しているのだろう。他に何か言われるとかましてや聞かれるなんて,全く思っていない。
アメリカでは,店員さんは実によくしゃべって「この商品,いいわね。どこにあったの?」とか「俺は昔横須賀基地で働いていたんだ」,「私のボーイフレンドはトムって言うんだけどね」とかホントにいろいろ話してくる。後ろに列ができていても関係ない。こちらも会話モード全開。
三日前なんかは「日本人?あなたの声って,ワンピースっていうアニメに出てくるキャラクターにそっくりなんだけど」と言われた(笑)。「見たことないけどキャラクターの名前は?」,「忘れたよ」,「じゃあ今度教えてね」と別れた。
今は変わってきていると思うが,日本語の「こんにちは」は使わない状況や場面が多い。日本では,スーパーのレジ,病院の受付,市役所,銀行,郵便局のように一対一で話すとしても,あいさつなしでいきなり用件に入っていたように思う。前置きのようなものとして,「すみませんが」とか「あのー」で始めていたような…。「おはようございます」はまた違って,朝ならば自然に出てくる。「おはよう」と短く言うことで使い分けもできるのでより対象者も広がる。
家族間でも昼頃会っても,職場でも同僚に「こんにちは」は言わなかった。朝会うのが普通という関係では,あいさつは一回でよい,それを逃したらなしということか。うちの夫は,私の父に昼頃「こんにちは」とあいさつしていて,父親はものすごく戸惑っていた。同居家族には,こんにちはもこんばんはも使ったことがない。ほどよく知っている人で,その一言で会話が終わるような関係...つまり,「こんにちは」はご近所さんに使うことが最も自然だと思う。
予期せぬ「こんにちは」からはやや強制的に距離を縮めようとしていて,そのあとに何か言われるのではないかという感じもする。日本食品店のお客さんも無視しているわけではなく,スイッチがオフになっているので,不意を突かれて戸惑って挨拶しそこなっただけだろう。
お店の方にしてみれば,いつも買いに来て下さるお客さんにフレンドリーにあいさつをしたいとか,無言というのも何か気まずい(アメリカに住んでいるとそうなる)ということか。レジでは,こっちから「こんにちは。お願いします」と言うのがいいような気がする。
あいさつで互いに感謝の意を持っているということを示すことにもなるので,いつでも会話モードをオンにしておこうと思う。