…というのは,ずっと前に聞いた母親のひと言。

 

次の朝ドラの予告で,ヒロインが旅館で働くという設定を聞いての反応である。日本にいた頃は朝ドラとは無縁だったので何とも思っていなかったが,あの母親の反応だけはよく覚えている。

 

渡米してから観るようになったが,つまらないものでもどうにか体に鞭打って視聴。しかし,どうにもがんばれなかったのが「おちょやん」。主人公の成長が全く感じられず,騒々しく,人物も誰が誰だかわからなくなり挫折した。実はタイトルからして,断念するかも…という予感はあった。今回も挫折しそう。

 

朝ドラのパターンと言えば,主人公の幼い頃は元気な子役が1,2週間演じる。成長して都会に出てきて下宿すると,ちょっと変わっているが心の優しい住民に出会い,街の愉快で親切な人達にも主人公はかわいがられる。食べ物関係の職を目指しつつやがて結婚し,出産。成長した子どもが反抗するようになるものの,後に理解し合えるようになる…。

 

こういうパターンに飽き飽きしていたので,「カムカムエヴリバディ」は斬新でおもしろかった。ストーリーの展開も読めなかったし,どの登場人物もそれぞれ人間味があり,生き方や立場に共感できた。突飛なキャラクター設定(天才医師とかロボットのような家政婦)や不可解な行動もなく現実味もありつつ,ドラマとしてよく練って創り込まれていた。多少無理な展開でも,全体としてそれをはるかに上回る内容だから気にならず。軽重のつけ方が秀逸で,見る者を飽きさせないように構成されていた。

 

良さげなセリフを突如ポンと出したり,だらだらと状況を説明したりして,セリフのみが独り歩きしたりすることもなし。主人公3人があれだけ苦労しながらも,ハッピーエンドで終わるのは実に清々しかった。やはり希望の持てるラストがいい。

 

どこまでも善人・果てしなく悪人というキャラクターには,全く共感できない。人間誰しも良い部分と悪い部分があり,そんなことは誰でもわかっている。人間の弱い部分をどう描いて共感を得るかが,脚本家の腕の見せどころだろう。

 

暗い時代だから明るいドラマを!というのは安易な発想。キラキラした蛍光色にあふれたドラマは返って暗さを浮き彫りにし,そのギャップに疲れるだけだ。


一方,戦時中ならともかく,主人公に貧困や病気などの不幸が次々と襲い掛かるのも気が滅入る。単発的な「困難→乗り越える→さらなる困難→また乗り越える」の繰り返しではなく,全体に一本通ったテーマに沿っているかどうか。

 

誰かが亡くなっても過酷な労働を強いられていても,全く悲しくもならないというのは視聴者が人間として非情なのではなく,描写が悪いから共感できないだけ。まずは,魅力的で人間味あふれる筋の通ったキャラクターを創って欲しい。そして,最初から最後までテーマに沿って,人物に命を吹き込んで動かしてもらいたい。

 

ひどい作品になると,「今日の放送分は,もしかして昨日思いつきで書いた?」とさえ疑いたくなるものも。半年もあるから取って付けたようなエピソードが入るのは仕方ないよなとか,予算も日程も限られているし大変だよねとか妥協して観たりする。個性的な俳優が出てくれば「ああ,視聴者は笑わねばならないところなのだ」と己に言い聞かせ,ベテラン俳優が出てくれば意味のない言動をとっても「さすが!って思うところね」と,自分を納得させる。朝ドラの視聴者はこうあるべきという型にはめ,次第に疲れてくる。

 

ドラマがつまらなくても観る人が多いという事実に甘えないでもらいたい。俳優も朝ドラの常連ではなく,全く出演したことのない俳優を望む。何より,いい脚本家が出てくることを期待する。