東京オリンピック開幕の日,日本からお手製のうちわが届いた。「風」のひと文字。文字は涼しげなのに,何と美しくてあったかい字なんだろう。

手紙には「日本から涼しい風を」と書かれていた。


風。2日前の暴「風」雨で,停電や地下室浸水の被害が広範囲に及んでいる。連日の蒸し暑さでそよ「風」が欲しい。疾「風」のごとく駆け抜けるオリンピック選手をテレビで観戦。日本には台「風」も接近しているし,コロナによる「風」評被害もある。今年ならぬ今月の漢字に選びたい。


このうちわは,直接習うことはなかったが,母校である地元の高校の書道の先生をしていらした方からの贈り物である。

 

同封されていたお手紙…季節のあいさつに始まり,内容もさることながら,その文章と文字の美しさにため息が出た。しかも,目上の方からこんなに敬語は使われたことがない。相手を思いやる心が紙面すべてからにじみ出ている。

 

そして,封筒の中央に大きく書かれた自分の名前!こんなに名前の漢字に見入ったことがあったろうか。誤字や走り書きは論外だが,呼び方にしろ,人の名前をていねいに扱うことは本当に大事だ。

 

消印を見ると,海を越えるのに53日もかかっている。封筒や便せんを選んで,ペンを執る。郵便局に行って,切手を貼って投函する。いつ届くのかわからない。こういう手間暇のかかることをして下さったというその想いを想像するだけで,感謝で胸が絞めつけられる。

 

電話にメール,テレビ電話に無料通話のアプリだってある今の時代。AIが代わって返信をする時代も遠くはないだろう。プレゼントだって,オンラインなら一瞬で注文が完了する。より速く。より効率的に。ペーパーレスに...。

 

和紙の封筒に手書きの文章,そして木製の持ち手の付いた和紙のうちわの温もり。情報を迅速に得ればよいという時代において,手紙や手作りは無駄で時代遅れとも取れる。


縦書きで便箋5枚にびっしりと綴られた手紙は,筆文字フォントでタイプされたメールとは比べものにならない。心を打つ文字と文章がどれだけ人を幸せにするか,本当に嬉しい贈り物を頂いた。