複数の小さなお土産やプレゼントを「バラマキ」という,らしい。らしいというのは,自分ではもちろん,実際に誰かが話すのを聞いたことがないから。節分の豆まきやバレンタインのチョコレート等でもネットで目にする機会あるが,ミレーの「種を蒔く人」のように淡々とチョコをばらまきながら歩く姿が頭に浮かぶ。
ネットには「ばらまきお菓子」として普通に宣伝されている。個包装されているということから,単なる「お徳用」や「ファミリーパック」の大容量の駄菓子ではなく,人にあげるためのちょっといいお菓子なのだ。
「ばらまく」という言葉に違和感,むしろ嫌悪感を覚える人も少なくないと思うが…もうみんな慣れてしまったのか。
辞書には,「(財布がよく閉まっていなくて)小銭をバラまいた」という例文は見当たらなかった。うっかり落としてしまったのではなく,そこに本人の意図があるのが「ばらまく」。
価値がある物をまく場合,権力や金がある者が上から下々の者に「施してあげる」というイメージで,ここに敬意は存在しない。政治で使われると,何やら不正の臭いがする。
「ばらまく」の意味を辞書5冊で調べてみた。正しくは「散蒔く」のようだが,「散撒く」とも。
1.電子辞書の広辞苑:①ばらばらと散らしてまく。②金銭などを多くの人に見さかいなく(気前よく,または少額ずつ)与える。
2.電子辞書の明鏡国語辞典:①ばらばらに散らしてまく。あちこちにまき散らす。「豆をー」「うわさをー」②金品などをあちこちの人に配る「投票を依頼して金をー」「開店通知のビラをー」
3.新明解国語辞典(書籍:金田一京助):①一か所に偏らないように,まんべん無くまく。「豆をー」②だれかれの区別無く,物を分け与えたり話などを広めたりする。【いい意味で用いることはあまり無い】「悪評・(争いの火種)をー」「金がばらまかれる」
4.辞林21(書籍):①乱雑にまき散らす。ばらばらにまき散らす。「ビラをー」②金銭などを広い範囲の人に分け与える。「金をー」
5.言葉の世界 国語学習辞典(書籍/小学生向け):①ばらばらとまき散らす。②お金や品物を大勢の人にどんどん渡す。「びらをー」
5つの辞書で比べてみると,例文には「豆・金・ビラ・うわさ」の4つ。3にははっきりと「いい意味ではあまり使わない」と書いてあるし,1の「見境なく」という言葉!「見境ない」は,物事の見分けや善悪・良否の判断なくということだ。とにかく,いい意味を表すために積極的に使う言葉ではない。
ただ,「ばらまき用のバレンタインチョコ・ハワイ土産」のように,行為そのものではなくまだ名詞にとどまっている。「バラマキお菓子」とは言うが,「職場でハワイ土産のお菓子をばらまいた」と動詞では使わないし,「よかったら,これバラマキ土産です。どうぞ」と人に使わないのは救い!!しかし,時間の問題か。
4の①の「乱雑にまき散らす」というのもなぁ。ていねいに品良く,一人ずつに「はい,どうぞ」ではない。「ばらまく人」がいれば「ばらまかれる人」もいて,それが自分だったり。この言葉にはおごりがあり,思いやりがこもっていない。「おしゃれでセンスが良いばらまきお菓子」というネットの宣伝文句を見たが,このミスマッチたるや。センスがいい物とばらまくという行為が全くかみ合わない。
ばらまき用のお菓子を買い,足りないとか数えながら数種類を小袋に詰め替えてもらうお土産…手を取らせまでももらわなくていいけれどと思うが,そういう訳にもいかぬと,あげる方も大変なのだろう。確かに,お土産文化がある日本人にとっては,旅行や一時帰国は大変である。何かのお返しという訳でもなくましてや義務であろうはずもないのに,手ぶらで人に会う訳にはいかないから…。期待されているお土産を渡して,そこでやれと初めて場が落ち着く。「バラマキ」という言葉に,ささやかなる抵抗が含まれているのかも。
バラマキ。若い世代には違和感がないのだろうか。言葉よりも中身,というかもしれないが,物よりも言葉の方が大事だったりする。とにかく,贈り物を渡す相手を大事にする言葉を使いたいと思う。