うちの夫は餃子が大好物だが,結婚当初から度々このような会話が交わされてきた。
「おいしいなあ!この肉って,鶏肉?」
「えっ,そ,そうだよ。ところで,ご飯のおかわりは?」
ご飯のおかわりはしないというのはわかっているのだが,もちろん気をそらすためである。
まさか,豚肉とは言えないだろう。うちの夫は5〜20歳までを中東(レバノン・イラク)で過ごした。イラクと言えば,イスラム教。豚肉は不浄のものとされるため,一切食されない。ただ,夫は人口の1%にあたるキリスト教徒なので,宗教的には食べても問題はないが,15年間も豚肉を食べる習慣のない...というか禁じられた国で育ったのである。
それにしても,「この肉は何?」とよく聞かれたということは,疑っていたんだろうなぁ(笑)。
近所の日本食品店には,豚肉・鶏肉・牛肉・野菜と,4種類の具の餃子が並んでいる。売り場面積も広く取ってあるから,「このスペースに他の食品があればなあ!」とbeef gyozaを横目で見つつ,豚肉餃子を手に取る。そして,夫が見ていないすきに,パッケージを裏返してカートに素早く入れたものだ。
中国人の友人(Walled Lakeの元レストラン経営者)がよく豚肉を使った料理でもてなしてくれることもあるが,じわりじわりと豚肉へのハードルを下げていくため...10年以上に渡ってさりげなく言い続けた。
「餃子っておいしいでしょ。やはり豚肉じゃないとこのおいしさは出ない」,「中国人や日本人,ほらベトナム人の友達だって豚肉を使ってたよね」,「豚肉は栄養価が高い」,「好物のラーメンって,豚骨スープなんだよ」,「大好きな麻婆豆腐も豚肉。豚肉がないとおいしいご飯ができない」。
...今では,何も聞かれなくなった!
うちの近所にはアジア人が少ないので,スーパーには豚ひき肉が置いていない。あるのはソーセージに味付けされたもの。そういうわけで,日本食品店で非常食にもなる冷凍食品の餃子を買う方が手っ取り早かったりする(手抜きではない!)。
昨年,夫の従兄夫婦と中東のカフェでお茶を飲んでいた時。グアテマラ人の奥さんが,「豚肉を食べるって?How dirty(何て汚い)!」と顔を歪めて私を見た。
食習慣は説明しても理解は得られるものではないから,反論はしない。彼女とは仲がいいんだけれど,言い方が...。夫はよく,What you say(何を言うか)ではなく,How you say(どう言うか)が問題なのだと力説している。
文化のや意見の違いは,ふーんそうなんだと受け入れることに尽きる。10年以上も根気強く説得してきたので,少しは忍耐力はついたか。