このウィルスのせいで,日々の食べ物を得るのも困難な人のために,無料で食糧を配給する支援がある。

アメリカ人の友人に,「本当に困っている人は,どこで食べ物がもらえるかも知らなかったり,取りに行くための車も持ってなかったりするんじゃないのか」と聞いてみた。

彼女の返事は,こうだ。「無料で家まで配達してくれるところもある。ただ,ボランティアで食糧を車のトランクに積んであげていた友人が見たのは,キャデラックやBMW等の超高級車で食料をもらいにやって来る人達。他にも,既に自分で購入したと思われるような食料品が,トランクに大量に積んであったり...」。

もらえる時にもらって貯めておきたい,誰でももらっていいんだし,無料なのだから,浮いたお金を他に使える,高級車と食糧は関係がない...しかし...。彼女が言葉を切ったように,私も何の返答もできなかった。

アメリカに住んでみて驚いたことの一つが,「足る時には,それ以上欲しない」という姿勢。うちの夫は,無料で配っているサンプルは決して受け取らない。渡米当初,私などは夫に「どうしてもらわないの?一人一個もらえるんだから,黙って受け取って私にくれたらいいのに」とセコいことを言っていた。夫に限らず,こういうアメリカ人は周囲に多い。「念のためにもらっておこう」とか「後で使うかも」,「後で誰かにあげればいい」等とは思わない。欲していた物でもないなら,その時に必要な誰かのために譲るのである。

このパンデミックでは,これを期待するのは難しい。

並んでいる車に食料品を積むのがボランティアをする人の役割だが...時間や労働力を提供しているだけではない。感染のリスクもあるし,心無いことを言われることもあるに違いない。いろんな光景を見る。私ごときが想像できるような簡単なことではなかろう。

本当に困っているのは,運転できない人(老人・病気・怪我・ハンディキャップ等)や,取りに行く体力や気力すらない人だ。保存するための大型冷蔵庫もないかもしれないし,受け取った缶詰等でどう料理をすればいいのかわからない人もいるだろう。ウィルス蔓延以前から,アメリカではオピオイド問題が深刻であり,麻薬中毒者で子ども達の世話ができない親も少なくはないというドキュメンタリー番組も見た。

本当に困っている人に,支援の手が行き届くことを願うしかできない。