2年ほど前だったか,羽田空港の清掃員として働く女性を取り上げたテレビ番組で耳にし,はっとした言葉だ。床をみがきながら彼女はさらっと言った,「節約もしなきゃならないし」と。
 
清掃のプロなんだからそのくらいできて当然だとか,私ならもっときれいに磨けるわと言う人は必ずいる。しかし,職場で支給される道具を使い,洗剤などを節約しながら,限られた時間で清掃しなくてはならないのだ。
 
条件付きの中でどれだけできるかが,本当のプロ。
 

料理でも手芸でも,何でも同じだ。予算はいくらでもあるから節約はしなくてよい,時間も場所もいくらでもあるというようなありがたい環境はなかろう。最高級の野菜や肉を高級鍋で時間をかけて煮込めば,誰でもそれなりの料理はできるかもしれない。

 
レストランなどで,「赤字覚悟で」というフレーズがついて低料金の食事を提供する広告がある。まあ実際に赤字にはならないのだろうが…身を切る覚悟が伝わるこの表現に,そこまでしなくても…とこちらの方が苦しくなる。ちゃんと利益を出してもらわないと。この店が倒産したら困る…従業員にもいい条件で働いて欲しいから,無理しなくてよいのにと気の毒になる。店で値切るのもほどほどにしないと,いずれその店がなくなって困るのは自分。
 
こういうのも好ましくない。「アメリカは返品大国なので,大好き」とか「家に持ち帰った後で壊れたんだけど,最初から壊れていたことにして返品した」とか…自分の損得を基準にした発言。道徳心のカケラもない行動を取り,しかも堂々と話す人もいる。返品については,やはり「居候3杯目にはそっと出し」の気持ちがするのが本当ではないか。
 
「~という店は,閉店後も店に入れてくれて,注文締切日が過ぎたおせち料理を特別に作ってくれると言ってくれた。いい店!」これを聞いた人は,うらやましいとかいい店とか思わない。思うわけがない。「この人は嫌な客だな。しかも迷惑をかけたことすら気づかず,特別扱いされたことを自慢している。店の宣伝のつもりか知らんが,これを聞いた他の客が同様の要求をしてきて,それが受け入れられなかったら怒ったりして...大変なことになるだろう」だ。
 
自分が経営者だったらなんて考えられない悲しさ。閉店後にも客の相手をしている店の人が,自分の家族だったら。ブラック企業とか言うが,客の過度な要求がブラック企業を創り出している側面もあるのに...。  
 
ムリを通せば,笑顔でいいよと言われても…必ず嫌われています。限られた時間・予算内・決まりの中で商品やサービスを提供するのがプロで,それを尊重するのが客。赤字を出させてもよい,自分だけは得をしたい,お金を出している私には権利がある,特別扱いを自慢したいと思う嫌な客にはなりたくない。