うちの夫はWalled Lake学校区のESLコーディネーター(教育委員会)として長年管理職として勤めたあと教員に戻り,今年度をもって予定通り退職する。かつては補習校のニュースレターにも英語習得についてのアドバイスの記事を書いたことがあり,駐在中の日本人家族や留学生・研修生とも関わりがあったのでご存知の方も多いと思う。
夫は,プライベートにおいても差別や侮辱,人を傷つける発言も損得勘定での付き合いも一切しない。見栄も張らず自慢もせず人をうらやましがることもなく,人の努力や成功には惜しみない称賛を贈る。老若男女,国籍,人種,宗教,政治,興味の対象がどれだけ異なっても敬意をもって,相手の立場を理解して話す。
現地校の他の教員や管理職との考え方の違いもあった。おおげさに聞こえるかもしれないが,夫は日本人の生徒や研修生が学校に適合しやすいようにと見えないところで現地校のシステムや考え方との間に立って戦ってきた。「~さんは日本から来たばかりなのによくがんばっているので,大いに評価すべき」とか「~さんは今年本帰国するんだから,そこまで要求するのは酷だ」と配慮。結果を急ぐのではなく,誰に対しても忍耐強く接していた。私も陰ながら「日本人がそういう言動をするのは,~という日本の社会やものの考え方に基づいているもの」とか「こういうふうに接したらいいよ」など話し,日本人の英語の誤解などについても説明したりした。夫の立場が悪くなるかもと心配しながらも,信念を曲げなかった夫を尊敬している。
夫の両親もアメリカ国籍ではないが,アメリカで生まれ育っていない友人の方が多く,日常的に異文化に触れてきた。自らも幼少期にNYから中東に移り住み,言語や生活習慣の違いに苦しんだ経験があるので,ESLの生徒さんの気持ちもわかるのだと思う。
関わってきた生徒たちの進学や就職など様々な推薦状も親身になって書いてきた。頼まれたらすぐに睡眠時間を削ってでもやる。副業が小説家なので推薦状の文章もパワフルで,休日の早朝に仕上げて「今までで最高の推薦状が書けた!きっと合格する!」と満足気で,難関大学や希望の職業に就けたという報告には一緒に喜び合った。
コーディネーター時代は,文字通り,幼稚園から高校までの外国から来た生徒一人ひとりに寄り添っていた。ウェスタン高校に在学していたESLクラスの中国人生徒の母親の移民の保証人になった話は,中国人コミュニティではよく知られている。当時,父親と子ども達3人だけがアメリカに移住できたものの,どうしても母親には許可が下りなかった。休日の食事に招待し何か困ったことはないかと子ども達に尋ね,事情を聞くと夫はすぐに個人的に移民のスポンサーになると申し出た。母親はもちろんのこと,父親にすら会ったことがないが,「子どもを見れば親もわかるんだよ」と言う。たくさんの書類の記入や個人情報の提供をしなければならない。何かあったら社会的地位も少ない財産も失うこともあるが,夫はそういう人だ。その後母親は無事に移住でき,娘さんの結婚式では最前列の正面に席を用意して頂いた。今も家族同然の付き合いをしている。
教員に戻ってからは,中学校では子ども達にMr.で呼ばせている。博士号を持つ人には,Dr.という敬称で呼ばねばならないが,高校生や大学生とは違って小さい子ども達が怖がらずに親しみやすいようにという配慮だ。大人にMr.で呼ばれて腹を立てたという博士号保持者もいるらしいが,自らMr.でいいよと申し出るのはなかなかできることではないと思う。
私もこの一か月間は退職式典やたくさんのパーティにも同伴し,手作りのお礼状もたくさんお渡しした。星条旗のシェイカーボックスカードは一枚2時間くらいかかって作ったが,皆さんに喜んで頂けてよかった。
私は,夫に「人を大事にすることはどういうことなのか」を教えられた。家族でも友人でも,同僚でも近所の方でも,通りすがりの人でもとにかくすべて。何かする時は,そこに愛情があるのか相手のためになるのかどうか。
夫は,人生とは「よりよい人間になるための旅」とか「自分の可能性をもっと掘り起こすこと」と言う。「人生は短い。たくさん笑って人に親切にして過ごそう」というのが,我々のシンプルな人生の信念だ。政治や宗教観,移民や貧困問題,英語やアラビア語…これからもっといろんな話をして夫を通して世界を見て,自分の考えを構築するのが楽しみだ。
うちはWalled Lake学校区内に住んでいるので,今後はボランティアなど違う形で学校に関わり支援していきたいと思っている。
勤務最終日(13日)には,教職員一同が退職者のFunny Stories(おもしろい話)を暴露して送り出すのがならわしらしい。現在,夫には内緒で現地校の先生とメールのやり取りをしておもしろい話をまとめている。日本のように万歳三唱や三本締めをしたり,泣いたりして別れるのではなく,大笑いして送り出すところが,なんともアメリカらしくていいな…と思う。
地方紙の取材も受けており,どのような記事に仕上がるのかも楽しみである。
在職中,夫に関わったすべての方々に心から感謝を申し上げます。