うちの夫は20歳になってから母国であるアメリカに単身で戻って来たそうだが,子どもの頃からアメリカ政治に強い関心を抱いていたという。15年間育った中東で父親や姉達が夕食のテーブルで話すのはいつも英語による政治の話だったため,渡米後にアメリカ政治を専門にしたのは自然のことだったそうだ。

 

一方の私は,日本にいた頃はレーガン大統領が共和党か民主党かすらも考えたこともなく,関心ゼロ。暗殺されたケネディ大統領の奥さんのジャッキーの再婚相手はギリシャの大富豪で…くらいのゴシップ的な知識のみで,本当にアメリカ政治については全くの無知であった。

 

夫の専門はアメリカ政治なので,話題の中心も政治に関するものが多く映画も政治をテーマにしたものを好む。この一年で,酷似したアメリカの政治映画を2本観に行った。「チャパキディック」と「フロント・ランナー」。いずれも,女性スキャンダルで民主党の予備選の候補者に指名されなかった政治家の実話に基づいた話である。

 

「チャパキディック」は,1969年に事件が起きたマサチューセッツ州の島の名前。女性を乗せたケネディ家の末っ子のテディ(エドワード・ケネディ/当時37歳)が運転する車が橋から落下し,女性(マリー・ジョー・コペクニ)が死亡したという事件で「チャパキディック事件」として知られている。

 

一方,「フロント・ランナー」は,1987年にゲイリー・ハート(Gary Hart/当時46歳)が起こしたスキャンダル。自らの膝の上に乗せた女性ドナ・ライスの写真がマイアミ・ヘラルド誌に掲載されて政治生命を絶たれた事件で,こちらは「ドナ・ライス・スキャンダル」という名で知られているようだ。写真が撮られたのはモンキービジネス(インチキや詐欺という意味)というボートの上だとか。ちなみに,映画ではこの有名な写真のショットはなかったが,何故だろう…。

 

いずれも,優れた出で容貌端麗。若くカリスマ性も兼ね備え,民主党の有力な大統領予備候補になりながらも,女性スキャンダルで失脚した政治家の実話。歴史は繰り返される。一方,現大統領は数々のスキャンダルもものともしていないが…。アメリカの大統領選は来年だが,民主党候補にスキャンダルがないように願う。

 

夫によると,チャパキディック事件については詳細に報道されて背景もよく知っていたが,ゲイリーハートについては知らない部分があったので「フロント・ランナー」の方がおもしろかったそうだ。

 

さほど関心がない上に内容も難しくはあったが,夫の影響がなければ一生観ることがなかったと思われる映画。夫のつまらない趣味に付き合うのは時間の無駄で苦行,という意見はもっともであろうが,趣味そのものよりも夫の考え方の根幹を知ることができるし,歴史を知ればアメリカ人のものの考え方も理解できる。最新のディズニーなどのアニメ映画を見てアメリカ人と楽しく話をすることもよいが,根っこの部分まで知り得る訳ではなかろう。聖書を読むと,クリスチャンが多数派の国民の考え方も見えてくる。病気や仕事上の個人の問題に加え,戦争・貧困・社会をゆるがす大犯罪や自然災害は,人格形成に大きな影を落とす。人を理解するためには,背景をきちんと知ることだとつくづく思う。