日本でバレンタインデーと言えばチョコレート,しかないと言ってもいい。でも,ここではチョコレートをあげたりもらったりするのは圧倒的にクリスマスである。バレンタインはむしろ花とか他のものかな。有名メーカーの高級品に限らず最も手軽なギフトとしてチョコレートを贈り合い,その数も膨大で一年分はゆうにあるので,実際バレンタインに新たなチョコは不要。賞味期限も1年以上なので大丈夫なのだが,ドラッグストアでクリスマスセールのチョコを買っていたアメリカ人が「これは,来年のプレゼントにするのよ」と話しかけてきた。うーん…バレンタインならまだわかるけれど,1年後ですか。食品の廃棄は嫌だが,1年前の製造年月日が印刷してある食品をプレゼントするのはいくら何でもできないなぁ…。

 

日本ではチョコレートを贈り合うような機会もなく,外国のチョコレートの種類も全く知らなかった。渡米してから,M&Mとかハーシーズ(Hershey’s)などの手軽な物を買ってみたけれど,とにかく甘い!!ザラッとしていて,喉がひりひりと焼けつくような甘さ。つい大箱で買ってしまったHershey'sのホワイトの板チョコは絶対に完食できないので,滞米年数が長い日本人の方々にあげたら大喜びされた。「これって,一番おいしいチョコよ!」とか「こんなに高い物をいいの?」とか…。信じられないと思って,日本の家族や友人に送ってみたら,「何の罰ゲームか」とか子どもが吐き出した等と言われ,大不評であった。

 

しかし,滞米生活も長くなってくると,こういった激甘の食べ物にも慣れてくるのは事実。Nestleの100GRANDを「おいしい!」と思ってはっとしたりするが,渡米したての頃なら到底食べられなかったはず。パッケージにはChewy Caramel&Milk Chocolate& Crispy Crunchiesと書いてあって,かなり甘ったるいのが想像できる。このヌガーのキャラメルチョコ自体も日本では馴染みがなかったような気がする。

 

クリスマスには,GHIRARDELLI(ギラデリ),Russell Stover(ラッセル・ストーバー),三角形のTOBLERONE(トブラローネ),Ferrero Rocher(フェレロ・ロシェ),La suissa(ラ・スイッサ)などいろんなチョコをたくさん頂いたが,そのほとんどは近年ようやく食べられるようになったもの。ただ,お腹が空いている時とか,疲れて甘い物を欲している時に限る。なお,高級のHarry&Davidは群を抜いているおいしさ。

 

味覚は変わるのか変わらないのか。渡米前にボストンでホームステイした時に,球場でお年寄りの方々がポテトチップスやフレンチフライ(フライドポテト),そしてコーラをお共に観戦しているのを見て本当にびっくりしたものだった。若い頃は炭酸の入った飲み物や揚げ物を好む傾向があるけれど,年と共に変わっていくのが普通だと思っていたから。現在90歳の日本人のお年寄りはポテトチップスやコーラで育っていないから単に飲み食いしてこなかっただけなのかもしれないが,日本だと「いくらなんでも健康に悪い」と自制心が働いたり実際に胸焼けがしたりで,年齢と共に食べ物を変えるような気がする。

 

日本では好みは別としても,若者のお菓子(ポテトチップス・チョコレート等)とお年寄りのお菓子(饅頭・羊羹・せんべい等)は何となく区別されている。飴1つにしても,パッケージの渋さからこれはおばあちゃんたちが好きそうな味で,こっちはアニメのキャラクターがついてカラフルなパッケージだから子ども用だねとわかりやすかった。アメリカでは「子どもしか食べないだろう!」・「どぎつい色で砂糖の塊」・「飾り物ね」と思っていたキャンディコーン(ハロウィン用)やキャンディケーン(クリスマス用の杖型の飴)なんかもご年配の方々が「大好き」と言われるので驚く。ま,いずれも口にする勇気がないが...。

 

居酒屋で「好きな物を注文してよい」と言われた部下がフライドポテトとピザを頼んだら,上司に怒られたという話を日本のテレビで見た。若者がファストフード店で頼むものではなく,茄子の田楽とか揚げ出し豆腐とかそういう年配にも好まれるもの…「きちんとした」料理を頼むべきだったというのである。好きな物を注文していいと言ったのにおかしいじゃないかという問題ではなく,年配者に配慮しろとか,状況に合わせて判断しろとか,幼稚な味覚の食べ物は人間までも軽く見られるぞということだろう。

 

アメリカでおいしいと思っている食べ物は日本で食べてもおいしいのか。日本にはおいしい食べ物がどっさりあるので,一時帰国の際にアメリカの食べ物を持ち帰ってまで日本で食べるということはしないからわからないが,日本でも食べたいと思わない時点でアウトか。アメリカを離れて数年経ってアメリカの味が恋しくなることもあろうが,それは他の思い出も付随してきての味であろうし,ない物ねだりだったりする。ここでは,「アメリカの食べ物にしてはおいしい」とか「おいしいことにしておかないと,他にないんだから悲しくてやってられん!」,「高くて買えないから,安い割にはおいしい」という心理作用が働き,味覚をシフトさせ,おいしいと思い込ませているような気がする。空腹こそが最高のごちそう,というように,時と場所によるから何がおいしいのか本当のところわからない!

 

ま...食べ物にはそんなにこだわらずにありがたく頂きたい。