うちはカトリックですが,結婚する前に仕事でアメリカに来たときのこと。
高校教師家庭のホームステイ先でブロンズ色の十字架のピアスをつけていたら,アメリカ人のホストマザーからふいにひと言。
「あなたはキリスト教でないでしょう。どうして十字架を身に着けるの?」。
「聞かれた」のではなく,「身に着けてはいけない」という禁止の指摘です。普段は非常に温和な彼女ですが,冷たい視線とともにその口調は静かながらも厳しい批判に満ちていました。
「日本では仏教徒もみんなクリスマスを楽しむように,アクセサリーの十字架について意味はなく,ネックレスやピアスも身に着ける人が多いし,結婚式も教会でする人も多いし・・・」としどろもどろで答えました…。
本当に全く考えがなくて,「クロスのアクセサリーは,敬虔で清楚な感じがする」くらいにしか思っていなかった。
己の無知への恥ずかしさと愚かさ,相手を不快にさせてしまったこと,急に批判(ではなく注意なのですが)されたことへの衝撃などから,もう穴があったら入りたかった。
しかし,指摘してもらって本当によかったと思います。これを「人格否定」ととってしまえば,意固地になり人間関係は悪くなってしまいます。しっかりした考えを持って行動するようにという愛情の指摘なので,感謝の言葉しかありません。もちろん,彼女には敬意を持ち,今でも仲良くさせて頂いています。
私の説明(言い訳)は,「~の人が多いから」と「みんなしているから」。「~という理由で十字架をつけている」ではなかったのが,また輪をかけて最悪。
この「みんな~」は,日本人のよくない特徴として知られていることなんですね。「みんな持っているから(欲しい・買わなきゃ)」,「みんな行くから(行きたい・行かなきゃ)」…子どもの頃は,当たり前にそう言って親にねだっていました。「みんな」といってもせいぜい数名なのですが,「みんな」は魔法の言葉であり,親も親で「みんな持っているなら,買わなきゃね」と納得したりする。話題についていけなくなったり仲間外れにされたりしないようにという親心に加え,経済的に買えないのではなどと思われたくなかったというのもあったでしょう。
でもやっぱり自分の頭で「何故そうなのか(欲しいのか・行きたいのか)」ちゃんと論理的に考えた上でのポジティブな理由ではないのです。
「クリスマスにはみんな豪華なレストランで食事をするから,私も予約しなきゃ」・・・って本当なのか?みんなすればどうして自分もしなきゃと思うのか?そういう「みんな思考」で得られた満足感は,本心からの満足感とは全く別物のはずなのに…。
大学生の時,初めての海外旅行でプリンス・エドワード島を訪れました。街の大きな教会でちょうどミサがあっていたので,参列しました。しかも,信者の方々に混じって神父さんの前にひざまずき,ワインとパン(キリストの血と肉)まで頂きました。ただの興味本位でした。
カトリック系の高専を卒業した主人に話すと,「・・・・・・」という反応。無知さに,言葉がないんですね。
在米期間が長くなるにつれ,宗教は生き方の根幹であり,それぞれの宗教は尊重され,簡単に踏み入ってはいけないものだということも知りました。興味本位で観光地ではない他の宗教的建築物にも行かないとか,手を触れるとか安易な質問をしないとか。
クリスマスやハロウィンはビジネスとして欠かせないものになってきています。私も日本にいたら何の考えもなく,キリスト教徒であろうがなかろうがどっぷり浸かっていたのは否定できません。
教会で教える英語教室もありますし,何と日本ではお寺で教会の牧師さんが英語教室やらクリスマス会やらをやっているところもありましたっけ。驚いたのは,キリスト教の教会の信者さんにお寺のお坊さんが,というところも!
「日本または日本人のハロウィンやクリスマスは全く別物で楽しみのためのもの」と割り切っておく必要があるでしょう。アメリカでも楽しむのはよいのですが,キリスト教徒の多いアメリカ人の前では避けた方がよいことが多い。神を冒涜するつもりがなくてもそういうふうにとられてしまうことは,自分にとってひいては日本人にとってマイナスになるから。
・・・話は脱線しますが,ロックンローラーって,よく十字架を身に着けているような気がするけれど,あれって何でしょうかネ・・・?ドクロで地獄,クロスで天国なのでしょうが…ふうむ。
ペーパークラフトを教えていますが,「センチメント(カードなどに書く言葉)はMerry ChristmasかHappy Holidaysのどちらかから選べますよ」と言えば,日本人はほぼ全員後者を選ばれます。Happy Holidaysは宗教に関係なく使えるからですが,私も含め恐らく日本にいたら,Happy Holidaysという言葉を知らなかったり宗教について深く考えたりせずにMerry Christmasを使っていたかもしれません。
日本では,クリスマス,バレンタイン,ハロウィンについで,景気刺激のためのブラックフライデーセール。次はイースターで,最後にはアメリカの独立記念日まで祝うのかもしれません。
「時代の流れに乗るのが正しい」のか「正しい知識を身に着け,自分の頭で考え行動することが正しい」のか…。単なる興味本位や,値段が安かったからとかおしゃれだからだとか宗教のいいとこ取りだけはしないようにする,これは時代が変わろうとも信念として持っていたいと思います。