「日本のテレビ番組は圧倒的に食に関するものが多い」というのがアメリカ人の主人の感想。料理番組は言わずもがな,クイズ番組やお笑いのバラエティでも食を番組名に冠しているものが花盛り。ドラマでは,家族ドラマはもちろんのこと,恋愛ドラマでも実に皆さんよく食卓を囲んでいらっしゃる。産地やレストランでの食べ物のレポート(食レポ)も多数です。

食レポのコメントは,「おいしい」だけではすまされません。熱かったり冷たかったり噛めなかったりしながら,「まろやかでとろける」や「香ばしくふんわり」等と瞬時(リハーサルがあっているかもしれないが)に厳選された言葉でカメラに向かって表現しなければならない。

しかし……「おいしい」で十分ではないか。そこまでして味覚を表現しなくてはならないのかなというのが正直な感想です。まずいとコメントするレポーターはいないわけですし,いくらレポーターが「おいしい」と言ったところで,味覚は人それぞれ。食べる・味わうという行為は,非常に個人的なものです。食品のパッケージやコマーシャルは言葉の使い方で売れ行きに大きく影響するので別として,食レポの表現は行き詰まっているのじゃないか。ここまで味覚のコメントにこだわる国は,日本を除いてはないでしょう。

食レポ番組を見る時,「その食べ物がうまいかどうか」よりも,「レポーターの言葉表現がうまいかどうか」の方に注目している人が多いと思います。レポーターの名前が知られていればいるほど,その度合いは高まります。番組の視聴者がその食べ物を味わう機会は恐らく,ない。「語彙が貧困だな」とか「おいしいだけかい」等とついつっこみを入れたくなる。

どなたのコメントだったか失念しました(多分料理人)が,「最もおいしいものは,空腹時に食べたものである」と。アメリカの激甘お菓子を食べるのには,空腹時に限ります。本当はおいしくないが,空腹時という味覚が麻痺するマジックアワーに「おいしい体験」をしたことで,「あのお菓子はおいしかった」と頭に刷り込まれ,もう一度買うことになる。そして,徐々にアメリカの食べ物に自分を慣らして肥満の道をたどるわけですね。

話を戻して…。

一方,外国の旅レポの番組の多くは,「見たことのない果物がたくさん」とか「珍しい香辛料が並んでいる」等と通り一遍の表現の羅列です。食レポとは打って変わって,一気に表現が乏しくなる。現地に行かなくても,「南国なら見たことのない果物がたくさんあるだろうね」というのは容易に想像ができるので,もっと現地でしか伝わらないレポートをして欲しいと思う。確かに,予想できそうなことをレポートしてもらって「ほらね,やっぱりそうなんだ」と安心感を得ることも必要でしょうが,食レポのこだわりと比較すればこの差はあまりにも大きいと思う。

さらに言えば,味覚表現にこだわるのなら,他の感覚(視覚・聴覚・触覚・嗅覚)にももっとこだわって欲しい。カードストック(ペーパークラフトで使う色厚紙)のテクスチャーの手触りレポなら,喜んでやってみたいけれど(笑)。他の感覚のレポートはかなりマニアックなものになると思いますが,味覚もその五感の1つなのです!