ネタバレです。OKの方のみどーぞ。(前回
)
Chapter5:決意と真意11~20
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秋夜
「・・・・・・・・」
うつむき、背を向けても聞こえてくる先輩たちの声。
見たくない、聞きたくない。
ここを離れたいと思っているのに、足が動かない。
本当なら目の前にいって文句を言いたいくらいだけど
たとえ「友達」だと言っても、私だって桜庭くんと
ここへ来ているから、一方的に先輩のことは責められない。
・・・・・責められないけど。
でもーー
チラリと少しだけ振り返り先輩を見る。
あんな腕を組まれたり、楽しそうに女の子に微笑んだり、
甘くささやいたりするのはーー、見ていて凄く胸が
苦しいしイライラする。
秋夜
「ねえ、そろそろアレ、止めに行けば?」
「止めに・・・・・?」
秋夜
「そう。その為にここにアンタを連れて来たんだし」
そういえば桜庭くんは先輩がここにいるのを知ってた。
どうしてーー?
「あのさ、桜庭くんはなんで彩人先輩がここにいるって
知ってたの?」
私の問いに、ちょっと恥ずかしそうに後ろ頭をかいた。
そして。
秋夜
「実は・・・・・」
秋夜
「・・・・実は俺、店の下調べとかで午前中からここに
来てたから」
「え・・・・・」
秋夜
「アンタだ来るまでに色々と場所とか調べとこうと
思って来たんだけど、東の入り口にあやさんたちいてさ・・・」
秋夜
「まずいと思って、そのまま引き返してきた」
秋夜
「そのおかげで東だけはまわれなかったんだよ」
「そうなんだ・・・・。それで」
知ってたんだ・・・・。
秋夜
「うん。だからーー」
「!!」
「桜庭くん・・・・!?」
案内板の影から出てきて、桜庭くんが私の肩を
持って、身体を反転させた。
視界に先輩たちは入ってくる。
思わず顔を背けるけれど。
秋夜
「行ってきなよ」
そんな桜庭くんの優しい声が耳元で聞こえた。
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「行けって・・・・あそこ、に?」
秋夜
「そう」
秋夜
「行って、なにやってるのーって、怒ってきなよ」
「で、でもっ・・・ひとりじゃあ」
自信がないというか、心細いというか。
秋夜
「そんなすがるような目をしてもダメ」
秋夜
「俺が一緒に行ったら、アンタの立場が悪くなるだけでしょ?」
「・・・・・・・」
秋夜
「まあ、もしかしたら出ていくかもしんないけど」
秋夜
「アンタの涙は見たくないからね」
「桜庭くん・・・・」
秋夜
「だってきっと家まで送るの俺なんだし、俺が泣かせたみたいに
思われるのヤだし」
「・・・・・・・・っ」
そうふざけたように言う桜庭くんに、一瞬目を見開くけど。
二ッと笑む顔を見て、それが彼なりの励ましだと気づく。
秋夜
「ほら、ここで待ってたげるから」
そう言われて背中を押される。
「うん、ありがと」
あんな状態の先輩に声をかけられるかはちょっと自信ないけど。
ここで話さないと、いけない・・・・そんな気がするから。
「それじゃあ、行ってくる!」
肩越しに少し桜庭くんを振り返る。
彼は力強い目で真っ直ぐに私を見て、微笑んでくれた。
そして私は先輩へと向かって行った。
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一歩、一歩、近づいていく。
そしてーー
立ち止まり、大きく息を吸うと
「彩人先輩!」
彩人
「!?」
私の声にビクッと少し身体を反応させ、
彩人
「○○ちゃん?」
ゆっくりと顔をあがると、先輩は私を見た。
私も先輩だけを視界に入れ、じっと見つめる。
彩人
「・・・・・・・・・」
「・・・・あの、先輩。私、話が・・・・」
彩人
「・・・・驚いたな」
彩人
「君も来てたんだね」
先輩が隣りにいた女の子に微笑む、その子の頭に
手を置いて、
彩人
「僕も『友達』と遊びに来てるんだ」
彩人
「一緒に遊ばない?」
そう私に告げた。
悪びれもなく、普通に、楽しげに。
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「それは・・・・ちょっと」
一緒なんて無理。絶対に。
彩人
「そう、それは残念だな」
「あの、それより・・・・。みんな友達、なんですか・・・・?」
彩人
「そう、友達だよ」
即答される。
だけど・・・・・。
「でも・・・そうは見えないです」
友達にしてはやりすぎというか・・・・。
友達の範囲を超えてるように感じてしまう。
しかも、相手は先輩のことを好きな女の子だらけだし。
「・・・・・・!」
そんなことを考えていると、胸がズキンと痛む。
「あ・・・・・!!」
そこでハッと、ある場面を思い出す。
昇降口と保健室でのこと。
そして先輩が私に言った言葉を。
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(回想)
彩人
『君、いつまでもフラフラしてるよね、少し目を離すとこれだ』
彩人
『君は僕以外の・・・しかも君を好きだと言っている人間に、
愛想振りまいてる』
彩人
『それに必要以上に、近づくことはないし、君を好きな男に
わざわざ笑顔を振りまいてやることもないんじゃないかな?』
同じだーー
「・・・・・・っ」
後悔と嫌な気持ちが心の中でうごめく。
私、気づくの遅いな。思わず自分の鈍感さに苦笑してしまう。
私も先輩をこんな気持ちにさせていた?
それを先輩はもしかして私に伝えようと・・・・こんなことを?
・・・・ああ、桜庭くんもこれを教えようとしてくれてたんだ。
彩人
「・・・・○○ちゃん?」
彩人先輩が、なにも言わず放心状態の私を○しげに見つめる。
まわりの女の子たちも、邪魔だと言わんばかりにこちらを
にらんでいる。
そんな視線から逃げたくて、私はうつむいてそのまま
頭を下げた。
「ごめんなさい・・・・・」
彩人
「え・・・・」
もうこれ以上、なにも言えない。
言葉が続かなかった。
私には彩人先輩の行動をとやかく言える立場じゃないんだ。
だって同じことを私もしていたから。
グッと奥歯をかみしめ、そのまま誰とも目を合わせることなく、
モールの出口へと全力で走った。
・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・。
小さく私の名前を呼ぶ桜庭くんの声と、ポケットの中で
ケータイが鳴っていたけれど・・・・
振り向くことなく私はその場を離れた。
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どいつもこいつもバカじゃないかと、心の底から思う。
小さいことで汚い駆け引きして、イヤだってハッキリ言って、
とことん言い合えばいいのに。
面倒なことして、傷つけて傷ついて。
本当にバカみたいだ。
秋夜
「まあでも、一番のバカは・・・・」
そう呟くと、背後に人の気配と靴の音がする。
秋夜
「・・・・・・・」
来たーー
呼び出した相手が。
秋夜
「・・・・あなたですよ。綾瀬川先輩」
彩人
「・・・・・・・・」
彩人
「・・・・君にちゃんと名前を呼んでもらえるなんて・・・」
彩人
「今日はこれから雨だったりするのかな」
よく言う。
自分だって人のこと名前で呼ばないくせに。
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彩人
「それで。なにか用かな?」
彩人
「わざわざ学校登校前、しかもこんな朝早くに
呼びだすんだから、それ相応の用件があるんだよね」
いちいち毒づかないといけないのかな、この人は・・・。
まあいいや。
面倒だし。
これは言わないでおこう。
秋夜
「あるよ。だからわざわざここに呼び出したんだし」
秋夜
「それに知り合いに邪魔されたくなかったからね」
彩人
「・・・・ふふ。それで?なに?」
秋夜
「・・・・・・・」
秋夜
「・・・・イライラ、するんだよ」
彩人
「・・・・?」
秋夜
「あんたと俺って似てるみたいで、見ててすごくイライラする」
秋夜
「独占欲の強さとか、嫉妬深いところとか、本当似すぎてる」
彩人
「だから?」
秋夜
「だから、あんたのすることがすごく不快です」
彩人
「・・・・・・・」
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秋夜
「俺と考えとかが似てるから気持ちはわかる。
なのに、なんで気にくわないかわかる?」
秋夜
「ちなみに同族嫌悪ってだけじゃないから。
それも否定できないけどさ」
彩人
「・・・・そう。それじゃあ僕にはわからないな。
教えてくれるかい?」
薄ら笑みを浮かべるあやさん。
わかってるっぽいけど、まあいいや。
秋夜
「独占欲の強さとかは似てて、本当うんざりするくらい
気持ちわかるけど、決定的に違うとこもあるんだよね」
秋夜
「それはさ・・・」
秋夜
「俺はイヤなことはイヤってハッキリいうけど、
あやさんってまわりくどいっていうか、自分と
同じ目に合わせて気づかせたりするでしょ。
それで傷つかなくてもいい人間作ったり、自分も
傷ついたりして、不毛だと思うんだよね」
彩人
「・・・・・・・」
あやさんは目を細めて俺から少し視線を逸らす。
少しは今回のこと、反省してるのかな。
・・・・・いや、それはないかな。
まあ、あやさんが今更どう思おうとどうでもいいか。
本題はこれじゃないし。
秋夜
「でさ、ここまで言っといてなんだけど・・・・」
秋夜
「俺があやさんに伝えたいことって、これじゃないんだよね」
彩人
「・・・・・だろうね」
ふふっと妖しげな微笑を浮かべて腕を組む、あやさん。
いちいち芝居がかって見えて、ちょっとイラッとするけれど。
ここでまたなにか言ったら話が長引くだけだから、我慢をする。
彩人
「それで?本題は・・・・なにかな?」
秋夜
「んー、俺と考えが似てるあやさんなら、俺が本当に
いいたいこともわかってんじゃない?」
彩人
「・・・・・さあ」
彩人
「ちゃんと言ってくれないとわからないなあ」
絶対ウソ。
わかってる。
わかってて本当にいうかどうかとか試してるんだ。
腹黒いなあ。
あいかわらず。
秋夜
「じゃあ言うよ」
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秋夜
「俺、○○のこと好きだから」
彩人
「・・・・・・・」
秋夜
「あやさんがアイツを泣かせる役にまわってるんなら、
俺が抱きしめて慰める役をもらってもいい?」
彩人
「・・・・・ふ」
彩人
「出来るのかな?君に」
秋夜
「・・・・・っ」
嘲り笑うような言葉に、また腹が立つ。
彩人
「自分の気持ちには素直に動くことは
いいと思うよ」
彩人
「僕は止めない。止める権利はない」
彩人
「だけど、それが彼女を苦しませるとわかっていて、
君にそれが出来るのかな?」
本当にこの人の言い方はいちいちムカツク。
上からいうわけでもないけれど。
諭すような、遠回しな言い方が神経を逆なでする。
だけど今は一言一言にかみついてる場合じゃない。
秋夜
「出来るよ」
秋夜
「いや・・・・やりますよ」
秋夜
「あなたから○○を救えるならね」
秋夜
「後悔しないでくださいね、綾瀬川先輩」
彩人
「・・・・・・・」
ニッと笑みを浮かべ、あやさんがいつもやるように
挑発をする。
そんな俺の思惑に気づいたのか、少し眉を動かし
あやさんは表情から笑みを消して、目つきを変えた。
一変して俺を射貫くような目になる。
そしてーー
彩人
「奪えるものなら、奪ってみろ・・・・桜庭」
そう言い放った。
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あやさんの目に、表情に、もうふざけたような
色はみえない。
本気だーー
まあ・・・そうでなくちゃこうして宣言した意味がないんだけどね。
秋夜
「それじゃあ、遠慮なく」
秋夜
「俺、同じクラスだし、ずっと一緒だからチャンスは
いっぱいあるしすぐ伝えちゃいますから」
そう言うとあやさんの眉がぴくりと動く。
それを確認して、二度目の挑発は上手くいったと満足する。
秋夜
「それじゃあ、またね、あやさん」
悔しいのを隠すためか、けだるそうに髪をかき上げる
あやさんを横目に俺は背を向け歩き出す。
そして小さく『・・・っそ』と舌打ちする声が聞こえて、
歩く速度を速めて公園をあとにした。