注意ネタバレです。OKな方のみどーぞ。(前回




Chapter5:決意と真意


ほっと・・ここあ























ヒヨコ



放課後になり、私は桜庭くんの誘いを受けた。


ふたり沈黙のまま、道を歩く。


いろんなことがあって、なにを話していいのか分からない。


沈黙が重いーー


そう感じた時だった。


秋夜

「ちょっと寄り道しよう」


桜庭くんがそう言って、急に方向を変えた。


「え・・・あ、まって!」





秋夜

「・・・・・で?」


「え?」


公園のベンチに座り、突然話しかけられる。


秋夜

「なに考えてんの?」


「・・・・・」


秋夜

「まあ、言わなくてもわかるけどさ」


秋夜

「あやさんのこと、そんなに気になる?」


「そりゃ・・・だって、彼氏、だし。好きな人だし」


俯いて、ひざの上に置いてるカバンをギュッとつかむ。


気にならないわけない。


「もっとちゃんと話したかった」


秋夜

「・・・・・・・・」


秋夜

「話せばいいでしょ」


「でもっ」


そう簡単に言う、桜庭くんの方を向くと、桜庭くんは私を

見つめて少し微笑んでいた。



ヒヨコ



秋夜

「話したいと思うなら、話せばいいよ」


秋夜

「難しく考えすぎなんだよ、アンタは」


私の額を指で、ツンとついて桜場くんは立ち上がった。


それにつられて、私も立ち上がる。


秋夜

「そこまで真剣に悩む必要ないんじゃないかな」


秋夜

「あやさんってさ、少しこどもみたいなところがあるし・・・」


秋夜

「ほら、なんだっけあれ、『目には目を歯には歯を』な感じっていうの?」


秋夜

「そういう性格してるだけだし、あんまり気にしない方がいいよ」


秋夜

「あーまた、なんか企んでるんだ、って感じで思ってたほうが楽だよ」


「・・・・・・・・・」


「桜庭くん・・・・あの、それ・・・・フォローのつもりなんだよね?」


秋夜

「え?」


秋夜

「あ、まあ、そうかな?」


「フォローになってないよ」


「余計、気になっちゃうよ」


秋夜

「・・・・・・・」


秋夜

「あ、そう?」


「・・・・・・・」


秋夜

「・・・・・・・」


「ぷっ・・・」


秋夜

「・・・・・・!」


桜庭くんの「あれ?」と考える顔を見ていたら、どうしてか

笑いがこみあげてきて、噴出してしまった。


秋夜

「ちょっとなんで笑ってんのさ」


じとーっと、不愉快ですといわんばかりに、私をにらむ桜庭くん。


「ご、ごめん。なんか・・・・ちょっと」


可愛く見えたと言ったら、また怒る、かな?怒るよね?


秋夜

「はあ・・・まあいいよ」


秋夜

「じゃあさ、笑った罰として、明日俺に付き合ってよ」


「・・・・・え」


笑った罰、はいいとして、付き合って・・・って?


秋夜

「どうせヒマなんでしょ?」


秋夜

「それなら15時くらいにモールの西の入り口で待ってるから」


「え、えっと桜庭くん、それって・・・・・」


ふたりで出かけるってことだよね?


それはちょっとマズイというか、ダメだと思うんだけど。


秋夜

「俺の荷物持ちして」


「ええ!?」



ヒヨコ



秋夜

「別に大丈夫だよ」


秋夜

「俺はアンタのこと、最初にいったように興味ないし」


秋夜

「友達だからいいんだよ」


秋夜

「だから、よろしくね」


「あ、ま、待って!」




行ってしまったーー



私の返事も聞かずに、言いたいことだけ言って桜庭くんは

帰っていった。


「・・・・・・・」


どうしようーー


先輩に悪いことしたと思った直後になんて・・・・。


「やっぱダメ、だよね」


電話して断っておこう・・・・。



ーーと思い、断りの電話を入れたら


『ダメ。友達なんだったら、つきあってよ』


と言われて電話を切られてしまい・・・・。


結局出かけることになってしまった。


どうしよう・・・・。



ヒヨコ



桜庭くんとの待ち合わせ時間20分前。


少し早めに着きすぎたーー



ーーと思って、時間をどこかでつぶそうかと思ってたけど


「・・・・・・・」


茫然と待ち合わせ場所を見つめる。


なんでって、そこにはもう桜庭くんの姿があったから。


秋夜

「・・・・・・?」


あ、こっちに気付いた?


秋夜

「・・・・・・・・」


・・・・・なんか睨まれてる?


じーっとこっちを見て、少し口を動かすと、声が聞こえなくても

わかるくらい、大げさにため息をついた。


そしてじとーっと私を見る目はそのままで、ずんずんと私に

近づいてくる。


ちょ、ちょっと怖いかも。


秋夜

「ちょっと、ねえ。来てるなら声かけてくれない?」


桜庭くんが私の前にきて、開口一番に怒られる。


「ご、ごめん」


だって来てるとは思わなくて。


秋夜

「趣味悪いよ。遠くからじろじろと人のこと見てるだけなんて」


「そ、そんなんじゃないよ」


「ただビックリしてただけだって!」


秋夜

「は?」


「まさかこんな早くに桜庭くんがいるとは思わなかったし」


秋夜

「・・・・・?」


秋夜

「ああ、待ち合わせ時間より早いっていいたいの?」


「うん」


秋夜

「それならアンタだって早く来てるでしょ」


「・・・・まあ、そうだけど」


秋夜

「一緒だよ。驚く必要なくない?」


「そう、だね」


秋夜

「そうそう」


秋夜

「ま、アンタをひとりで待たせたくないって理由もあるけど」


「え?なに?いまなにか・・・・」


秋夜

「なんでもないよ。その服、可愛いねって言っただけ」


「え!?」


秋夜

「なに?」


「う、ううん。なんでも・・・・・。あ、ありがとう」


秋夜

「・・・・・・・。とくかく、行くよ!」


「あ・・・・・」


桜庭くんは、プイッとそっぽを向くと、私の手を取った。



ヒヨコ



手が繋がれ、ギュッと簡単には離せないように握られてしまう。


そしてそのまま歩き出そうとする彼を慌てて引きとめる。


「あのさ、桜庭くん」


「手・・・・を、そのっ、離してもらえると嬉しいんだけど」


秋夜

「手?」


私が視線で知らせるように繋いでる手を見ると、


秋夜

「ああ」


桜庭くんは気付いてくれて、手を少し持ち上げた。


秋夜

「これ?」


「うん」


さすがに繋いで歩くのは友達ではないと思うし。


秋夜

「・・・・・・・・」


秋夜

「アンタは今日、俺といるんだから、俺のことだけ考えて」


「え!?」


唐突な言葉に目が点になってしまう。


まさか、そんな答えが返ってこようなんて思ってなかった。


手を離してと言ったのに、俺のことだけ考えてなんて。


・・・・・どういう、こと??


「いや、えっと。そうじゃなくて私は手を・・・・」


秋夜

「わかってるよ」


秋夜

「離してほしいんでしょ?」


なにいってるのと言う顔で、桜庭くんが私を見下ろす。


それに頷いて答える。


秋夜

「それって、あやさんを気にして言ってるんだよね」


秋夜

「その考えを捨ててって言ってんの」


「・・・・・・へ?」


秋夜

「それにさ、手なんて小学生の遠足でも繋ぐんだから

気にする方が負けだよ」


「・・・・いや、でもそれとこれとは違うと思うよ」


一瞬、そうかもと思ってしまいそうになってしまった。


あまりにも桜庭くんが当たり前のようにそう言うから。


秋夜

「とにかく、俺はアンタの手を離すつもりはないよ」


秋夜

「どんなことがあっても、ね」


「・・・・・っ」


その真剣な目に、私はもう言葉を続けられなかった。


納得したわけじゃないけど。


でもーー


どうしてだか、もう言えなかった。




ヒヨコ



私が黙ると、桜庭くんは小さく息をはいて、


秋夜

「じゃあ、買い物に行くけど、いいよね?」


私に確認をした。


「うん」


秋夜


「えっと。じゃあ、楽器とか音楽系があるのってどこ?」


「あ・・・・それならあっちのEASTモールに」


秋夜

「・・・・・・・」


「・・・・桜庭くん?」


桜庭くんの表情が一変した。


私が指した方向を見つめて、すごく鋭い目つきになる。


秋夜

「ああ、あっちになるんだ」


「う、うん」


秋夜

「じゃあいいや」


「え、でもっ」


秋夜

「あっちはちょっと行かない方がいい」


秋夜

「というか、アンタには見せたくないものがあるから」


「見せたくない、もの?」


なんだろう・・・・。EASTモールって他になにかあったっけ?


私が首をかしげて考えていると、


秋夜

「じゃあ今日はアンタの買い物に付き合ってあげるよ」


そう言って桜庭くんがグイッと手を引っ張る。


その拍子に、彼との距離がものすごく近くなり、反射的に

思わず身体を離してしまう。


秋夜

「なに、その反応。もしかして意識してんの?」


「っな、違っ!」


秋夜

「ふーん。どうだか」


ニヤリともしない桜庭くんに、ムキになるのが少し

馬鹿らしくなってしまい、私はハァっと肩を落として

ため息をついてしまう。


そんな私を見て、桜庭くんが今度は優しく手を引いて、


秋夜

「行こう」


ーーと、モールの中へと歩き出した。


まだ繋いでる手は気になるけれど。


私もとりあえず、彼について歩き出した。



ヒヨコ



桜庭くんとふたり、手を繋いでモールを歩く。


気にするなと言われても、繋いだ手が気になる。


こんなところ、誰かに見られたら絶対誤解されちゃうよね?


「・・・・桜庭くん、あのさ」


秋夜

「なに?」


声をかけたらピタッと足を止めてこちらを向く桜庭くん。


話は・・・ちゃんと聞いてくれるんだよねぇ。


「あのさ、やっぱり手は・・・どうかなっと思うんだけど」


手のことを言うと、目を見開いて呆れた顔をしている彼。


秋夜

「ちょっと、まだそんなこと言ってんの?」


秋夜

「手くらいなんでもないでしょ」


秋夜

「さっきもいったけど、友達として、ここにいるんだから」


秋夜

「下心なければ関係ないんじゃないの?」


「私たちはそうでも、まわりの人たちはそう思わないんじゃないかな」


「ただの友達には見えないと思う」


そうはっきり告げると、彼は一瞬真剣な表情をした。


秋夜

「・・・・・・」


秋夜

「それはどうして?」


「え?」


秋夜

「どうしてそう思うの?」


「どうしてって、それは・・・・」


だってそれは、男の子とふたりでこうして歩いてたら、

誰だってただの「友達」には見えないだろうし。


秋夜

「・・・・・・」


秋夜

「でもこれってアンタが望んだことじゃないの?」


「・・・・私が、望んだ、こと?」


なにをいってるんだろう。


そんなこと、私は望んでなんかないのに。


秋夜

「そうだよ。『友達』ならいいんでしょ」


秋夜

「友達とのことに制限されたくないって」


「・・・・・それは」


「確かにそれはそう言ったけど・・・・」


「でもそれとこれとは話が違うよ」


「ふたりでこうして出かけて、手を繋ぐのは友達の

域じゃないよ・・・」


秋夜

「・・・・そう思ってるのはアンタだけでしょ」


「え・・・・」



ヒヨコ



秋夜

「俺の中ではこの行為も友達がする範囲に入るって

言ったらどうするの?」


「それは・・・・・」


・・・・なんだろう。なにかひっかかる。


なにかすごく違和感。


秋夜

「また逆の人もいると思うよ。些細な事でも友達以上に

見えてしまって気にしちゃう人とか」


「・・・・・桜庭くん?」


秋夜

「あーもう、アンタには説明してもダメみたいだね」


秋夜

「それに俺が説明するより、現実見せた方が早いよね」


秋夜

「あと本人から聞いた方が一番いいかも」


「え?本人って・・・・」


秋夜

「行くよ」


「!!」


桜庭くんが強引に私の手を引張って歩き出す。


「さ、桜庭くん!どこに行くの!?」


声をかけるけど、答えは返ってこない。


そしてーー


向かった先は・・・・。



ヒヨコ



さっき、躊躇したEASTモールだった。


「・・・・どうして、ここに」


さっきは行きたくないっていってたのに。


なんで突然、ここに来たんだろう。


茫然とEASTモールの案内看板を眺めていると


桜庭くんが私の肩を叩き、自分は案内板に隠れるようにして、

無言である場所を指した。


「なに?」


なんだろうと、彼が示した場所へ目を向けるとそこにはーー


???

「君にはそのピンクの花がとても似合うよ。君の笑顔を

とてもきわだたせる」


???

「ああ、そっちの君にはーー」


大勢の女の子に囲まれている、ひとりの・・・・

とても見慣れた男性がいた。


「・・・っ。ねえ、あれって・・・・!」


思わず桜庭くんに訴えるように、視線を移す。


彼はちょっと呆れたような息をもらして、私から視線を逸らした。


それが返答だった。


そしてまたゆっくりと、視線をその男性に戻す。


さっきと変わらず女の子と話して楽しそうに微笑んでいる。


しかも彼女たちに触れられても、嫌がることも逃げることなく

それを受け止めてる。


その微笑みは、優しく穏やかで・・・・。


いつも私に向けられていたものと同じだった。


「・・・・っ」


・・・・その人の姿を見ていたら、ひどく胸が痛んで叫びたくなった。


「彩人先輩・・・どうして・・・」



10ヒヨコ



秋夜

「それに俺が説明するより、現実見せた方が早いよね」


秋夜

「あと本人から聞いた方が一番いいかも」




桜庭くんにそう言われて連れてこられた場所には

意外な人物が目を疑うような状況でそこにいた。



「彩人先輩・・・・」


どうしてここにいるんだろう。


それになんで女の子と一緒に・・・・。


彩人

「君の笑顔には人を幸せな気持ちにする魔法があるみたいでね」


彩人

「僕はいま、とても幸せな気分だよ」


近くにいる女の子に彩人先輩がささやく。


そんな先輩の微笑みをささやきを受けた女の子は放心状態。


あきらかに先輩のことが好きだという顔をして、先輩と見つめ合ってる。


「・・・・イヤだ」


私はその光景を見たくなくて身体の向きを変えた。


秋夜

「・・・・・吐き気がするよね」


「え?」


案内板に隠れていた桜庭くんが、チラリと彩人先輩を見て

目を細めた。


秋夜

「あのセリフだよ」


秋夜

「ねえ、あやさんってあんなだったの?」


信じられないといわんばかりの目をむけてくる桜庭くん。


そうか・・・・桜庭くんは転入してきたから、先輩の王子様としての

顔を知らないんだ。


「・・・・まあ、前はあんな感じだったかな」


ーーといっても、私もあまり話したことなかったから、

詳しくは知らないけど。


でも女の子には優しい人だと聞いていた。


秋夜

「ふーん」


秋夜

「それにしても、ホント、よく言えるよね、あんなセリフ」


秋夜

「俺は絶対無理」


「・・・・・・あはは」


桜庭くんの言葉に苦笑する。


そんな私を見て彼はフンと鼻を鳴らして、また案内板の

影に隠れてしまう。