ネタバレですのでOKの方のみどーぞ。
Chapter1 変わらぬ関係1~10
1(保健室)
・・・・
「好きだよ」
「んっ・・・・!」
抱きしめられ、優しいささやきに顔を上げた瞬間、
唇を奪われていた。
彩人
「・・・・・・っん」
ついばむようなキス。
「・・・・っ、先輩、もう予鈴が・・・」
彩人
「・・・・・・・・・・」
唇が離れて、そう言葉を発するけれど、
彩人
「なに?僕といるのに、授業の心配?」
「え・・・・」
先輩の問いかけに、いろいろな答えが浮かんだけれど。
それを答えさせてもらう時間はくれなかった。
「--ッッ」
さっきとは違うキス。
強引に唇を割り、舌が入ってくる。
抵抗しようとすると、その度に絡まってしまい、
妖しい音が耳に届く。
その音にゾクッと身体が震え、思わず先輩の上着を掴む。
そしてとうとう予鈴のチャイムが鳴る。
2
「っ!!」
彩人
「あれ?」
彩人
「もうやめるの?」
強引に先輩の胸を押して、距離をとった。
「もう授業、始まっちゃいます!」
彩人
「これで満足なのかな?君はーー僕はまだ足りないんだけど?」
首を少し倒し、微笑む彩人先輩。
いじわるなのは、あいかわらず。
だけど、前よりは優しくなった・・・かも。
彩人
「それに先生よりも教えるのは上手いと思うよ?」
彩人
「だから授業受けなくても大丈夫」
彩人
「君のことは成績も含め僕が面倒みてあげるから」
気持ちは嬉しいけれど、次の授業は担任だから行かないとマズイ。
「そ、それは嬉しいです。でも・・・次はサボるわけには
いかないんですっ」
彩人
「でも、僕は君とまだ離れたくないんだよ」
彩人
「それでも、行くの?僕を置いて?」
「うっ」
3
なんだかすがるような、切なそうな目を向ける、先輩。
「そ、それでも・・・その次の時間だけは」
彩人
「・・・・・・・」
彩人
「ふーん。なに?そんなに出たい授業なんだね。」
・・・・・・え?
彩人
「その授業担任の先生のことが好きとか?」
「あ・・・いや、そういうわけじゃ」
彩人
「・・・・・・・」
もしかして、なにかあるとおもわれてる!?
「あの・・・違います!」
「ただ、担任だからってだけ、です」
彩人
「・・・・・・それだけ?」
「それだけです」
彩人
「・・・・・・本当に?」
「本当に、です!」
彩人
「・・・・・・・そっか」
「・・・・・・・・!」
彩人
「それなら・・・・・」
4
行っていいの、かな?
私を抱きしめている先輩の腕の力が緩まる。
だけど、そこで私がおもむろに顔に出しちゃったからか、
彩人
「やっぱり、まだダメ。君をだきしめてたいから」
そういって、再び腕に力を入れた。
ギュっと優しく抱きしめられる。
大きな先輩の手が、私の頭を撫で、そのまま自分の胸に
私の顔をぴったりくっつけるように寄せた。
鼻をくすぐる先輩の香り。
先輩の腕の中はすごくあたたかくて幸せで、このままでいたい。
・・・・と思うけど!
やっぱり担任の授業をサボる勇気はまだない私。
「あの・・・先輩、やっぱりーー」
どうにかしてこの腕の中から抜け出さないと!
そう思ってどうにか身体を動かして先輩の顔を見上げる。
「・・・・・!」
彩人
「ふふ。可愛いね、○○ちゃん」
5
すると先輩は本当に優しく微笑んでいて、
彩人
「ごめんね。君を困らせて」
彩人
「でも本当に、もう少しこうしていたかっただけなんだ」
彩人
「だからーー」
「あ・・・・」
彩人
「行っておいで。そしてまたここに戻ってきてくれるよね?」
「あ、は、はい!」
彩人
「約束だよ」
彩人
「来てくれなかったら、次の授業中にでも君をさらいにいくからね」
「・・・・・!」
あ、この作ったような満面の笑み。
先輩ーー本気だ。
「絶対、また来ますから!先輩もここにいてくださいね!」
彩人
「うん。いるよ。僕はずっとここにね」
「わかりました。じゃあ、えっと・・・またあとで!」
そして笑顔で手を振る先輩に背を向けて、教室へと
全速力で走る。
そして走りながらふと思った。
彩人
『うん。いるよ。僕はずっとここにね』
先輩、授業は受けないんだろうか、と。
6
『一喜一憂』という言葉を思い出していた。
真っ赤な顔をしたり、真っ青な顔をしたり。
彼女が僕の言動で照れたり困ったりしている姿が
とても面白い。
いや、面白いというよりも、嬉しいだろうか。
クセになりつつある。
彩人
「ダメだな」
せめて困らせることをひかえないと。
このままじゃ嫌われてしまうかもしれない。
彩人
「気をつけないと」
???
「・・・・誰か、いるのか?」
彩人
「・・・・・!」
保健室のベッドに横になろうと、腕をついてふとんを
身体にかけた時だった。
窓を開き、室内に誰かが入ってきた。
7
これはまさか・・・・。
彩人
「もしかして、椎名・・・先生ですか?」
いつも保健室にいない、養護教論の椎名。
椎名
「・・・・?その声・・・3年の」
彩人
「綾瀬川です」
3回は名乗ったはずだけど、まだ覚えてないか。
しかし珍しいな、この人が保健室に戻ってくるなんて。
彩人
「どうしたんですか?こんな時間に」
椎名
「それはこっちのセリフだと思うんだが?」
彩人
「・・・・まあそうですね」
どうしてこの人はこんなまったりとした話し方をするのか
不思議だけど。
まあそれはおいておいて。
ここはちょっと生徒らしくふるまった方がいいかもしれない。
椎名
「病人ではなさそうだけど、お前は」
彩人
「ちょっとした寝不足です」
椎名
「そのわりには女生徒となにやら親しそうにしてたようだが」
彩人
「見てたんですか?」
椎名
「いや、聞こえたんだ」
彩人
「ああ、そうですか」
窓のそばで昼寝でもしてたのか。
8
椎名
「とりあえず、あー・・・・」
彩人
「綾瀬川です」
ついさっき名乗ったのに、また忘れたのか。
椎名
「そう、綾瀬川だ。次の休憩時間が始まる前に
教室に戻れ」
彩人
「・・・・?は、い」
なんとも不思議な言い方だな。
しかもいますぐには追い出そうとはしないのか。
彩人
「なにか、あるんですか?」
椎名
「・・・・いつものヤツが来るからな」
彩人
「いつものヤツ?」
椎名
「お前には関係ない」
彩人
「そうですか。それは失礼しました」
まあいいか。
そこまで知りたいわけじゃあないし。
そう思って、しきりのカーテンを閉め、ベッドへと
身体を倒した直後。
9
椎名
「ああ、そうだ。3年!」
椎名がカーテン越しに話しかけてきた。
彩人
「綾瀬川です」
・・・・名前を覚える気がなさそうだな、この教師。
椎名
「保健室で女と戯れるのはほどほどにしてくれ。
たまに戻ってきた時、入れなくては困る。
あとあんまり毒づいてると嫌われるぞ」
彩人
「・・・・・・・・」
この教師、聞こえてたんじゃなくて見てたのか・・・・。
彩人
「ご忠告どうも」
そう短くカーテンのそばを歩いていた椎名に伝え、
とりあえず仮眠を取るためにまぶたを閉じる。
10
時々ーー
彼女のため息に
おびえている自分がいる。
『嫌われるかもしれない』
それはもう他人にいわれなくてもわかっていることだ。
○○ちゃんを好きすぎて、独り占めしたくて、
自分だけを見て欲しくて、
自分のことだけを考えるように、
悩ませ困らせる。
こんなこと続けていたら、きっとこの先・・・・
愛想を尽かされてしまう。
彩人
「それは絶対に避けたいな」
いや、でも愛想をつかされるというよりも
疲れて離れてってしまうかも。
嫉妬深くて自分でも自分が嫌になることがあるくらいだから。
本当、自制しないと・・・・。
放課後。
先輩と歩く帰り道。
いつものように手を繋いで歩いていると。
先輩が突然足を止めた。
「先輩?」
彩人
「ねえ、そろそろ僕の部屋に来ない?」
「え・・・部屋に?」
いきなりの誘いに、目を見開いて先輩を見た。
先輩は私の反応を予想していたかのように顔を近づけて微笑んだ。
彩人
「鍵はもう渡してあったよね?」
ああ、そういえばもらってた・・・・っけ。
忘れていたわけじゃないけれど、使い時がわからなかった。
彩人
「それ。いつでも使って良いんだよ」
彩人
「勝手に入ってきていいしね」
「そ、そんな!勝手になんて・・・・!」
私が頭を振ると、先輩は無邪気に笑いながら
彩人
「寝てるときでも、シャワー浴びてる時でも、君だったら怒らないから」
彩人
「まあ・・・そのあとどうなるかは・・・予想つくだろうけど」
そう呟いた。