野紺菊 藤井順子さんの歌集を読む | Toshieのブログ

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藤井順子さんの歌集 野紺菊 を読む
些細な日常の一コマを客観視されている短歌の数々
印象に残った短歌を列挙してみる。
☆身の枷のなくなりし日々いかにせむ今朝もしばらく鏡に向う
 子供が育ち、手がかからなくなった日々。
 自分の自由な時間が出来たはずなのに、空しさを感じている。
☆玄関に並びたる靴出払いて家猫と聞く皇帝の曲
 子供や夫が出払った後の自由な時間 
 ベートーベンの皇帝をおごそかに聞く
 猫は落ち着かないのではと思ったりして
 我が家の二匹に聞かせてみたら、穏やかに寝ているではないか。
☆仕事終え帰り来し夫深々と溜息をつき卓に座れり
 お疲れ様でした。
 居心地の良い家庭の定位置に座り、ほっと一息。
☆口笛を鳴らし玄関入り来る夫は一日の仕事を終えて
 仕事先で嬉しいことがあったのか。
 自宅に幸せを運んできた夫。
☆あらがいの娘の言葉繰り返す海に向いて波音聞きて
 同性の親子ゆえの遠慮の無い言い諍いがあるのであろう。
 海に対面しながら、潮騒に波長をあわせている。
☆線香の倒れしままの形もちて温みもたざる灰となりたり
 一筋の煙を燻らせながら燃え尽きてゆく仏壇の線香
 線香に人の世のはかなさを重ねているようである。
☆肩パッド入るローンの済まぬ服着て久々のクラス会に来
 クラス会に着てゆく服をクレジットで奮発して購う。
 肩バッドがバブル全盛の時代を象徴している。
 あの同級生もこの同級生もローン返済中の服かもしれない。
☆手に軽き財布の中より小包を作りて送る老いたる母に
 パートで稼いだ僅かな小遣いから、老い母に送る小包。
 かつては母が娘に送ってきたであろう小包の逆転。
☆外側のいたく禿びたる靴履きて夫は仕事に出て行きたり
 歩く癖が靴底にあらわれる。
 減った靴底が夫の通勤や営業を物語る。
☆地の人に年金波止場と呼ばれいる岸壁に鰺を釣る人並ぶ
 定年退職後の暇つぶしと食料確保を兼ねての釣り。
 安上がりな岸壁での小鰺釣り
 それぞれが定年退職者なので年金波止場とは面白い。
☆敷き延べし蒲団の上に野良猫と家のチビとが寝息をたつる
 天日干しの蒲団にやすらぐ家猫と野良猫  
 きっと仲良しなのであろう。
 蚤も蒲団に移動したかも

☆丁寧に畳まれているレジ袋義母の遺品のひとつとなれり
 物を大切にして、慎ましく生きてきたであろうことが
 遺品のレジ袋から思われる。
 レジ袋も遺品になるのか。
☆両の手に夫は猫を抱きしめて若き父親の如き顔せり
 猫を抱くのではなく抱きしめている夫
 若き頃の赤子を抱く姿が重なったことに着目した。
☆停年の夫との距離微妙にて素知らぬ顔にまた距離をおく
 四六時中顔をつきあわせることになった隠居の夫との暮らし
 慣れるまで居心地が悪いことであろう。
☆仲悪き娘なれども夏物の白のバッグを貰いて使う
 相性が悪くても親子
 娘からの贈り物のバッグの白が清潔感を伴う。
☆切戸川歌会に夫付いて来てパチンコ店に座りて待てり
 車で二時間かけて妻の歌会の会場まで送迎してくれた夫
 歌会が終わるまでパチンコで時間つぶし
 さりげない優しさだ
☆死ぬ前に母さんの歌暖かく好きよと娘書いて残せり
 自死した娘の遺書であろうか。
 口では言えなかった母への思い。
 ご冥福をお祈りします。
☆逝きたりし娘の部屋に雛人形飾ればそこより春となりゆく
 心の中で生きている諍いがなかった幼き頃の娘
 人生の春を迎えずに逝ってしまった娘への思い
☆売り出しの野菜加工をやり遂げて冬のオリオン仰ぎて帰る
 歳末商戦用の野菜のカットをなしとげた夜の帰り道
 オリオンの三つ星が夜空に煌めく
☆品出しと野菜加工の作業終え老いの手に塗るクリーム匂う
 冷たい水に荒れた手に染みてゆくクリーム
 薔薇の香りであろうか?
 さあ、これから家庭に戻り主婦の時間が始まる。
☆いつも来る野良の三毛猫待つ夫鰺一匹を残して待てり
 雌の三毛猫にやるために残した夕飯の鰺
 いつもの時間にあらわれたであろうかみけちゃん
☆資源ごみ収集場所よりひと括り茂吉の歌集を抱きて戻る 
 誰がすてたであろうか茂吉の歌集  
 短歌好きの人にとっては興味ある歌集
 抱いて戻った姿が目に浮かぶ。
☆両の手を打ちて足上げ踊りいる二歳この子とほどけて遊ぶ
 孫との幸せなひととき
☆爺と婆お猿の駕籠屋唄いつつ竹籠担ぐ穉子のせて
 老夫婦二人して孫を乗せて担ぐ籠
 えっさえっさえさほいさっさ お猿の篭屋だ ほいさっさ
 こちらまで参加したくなる。
どの短歌もわかりやすく、共鳴する表現が多々ある。
気負いなく素直に詠むことへの原点に戻らされた。
勉強させていただきました。