谷口ひろみ歌集 海ひかる | Toshieのブログ

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谷口ひろみさんの歌集 海ひかる を読む
私好みの短歌を列挙してみる。
☆こんな風に育てた筈はないけれど爬虫類好きの娘が二人
 
 冒頭にあるので印象的
☆冷蔵庫に蛙の餌のミルワームを置きたるままに娘は帰りゆく
 
 それぞれの地に嫁いでいる二人の娘が爬虫類好きとは
 爬虫類 蛇以外は可愛いと思うけれど
 飼育しているとは、個性的な趣味ですねえ。
 冷蔵庫に置き忘れられた生きた虫の幼虫 恐怖だ
☆年老いて歩みの遅き犬と行く夕べ満開の八重桜まで
 
 満開の八重桜を見に、いつもと違うコースで老犬と散歩
 かつてはぐいぐいと手綱を引っ張っていった犬も年老いて
 歩みが遅くなった。 老犬の歩調に合わせてのゆっくり散歩
☆車の音聞き分け待ちいし犬の声かの日々われも夫を待ちいき
 
 犬は車のエンジン音を聞き分ける
 娘さんのやってくる車の音に喜び吠えているのであろうか。
 かつて亡き夫の帰宅を待っていた自分の姿を愛犬に重ねている。
☆水槽にかたかたと亀が音たてて命の在り処告げる明けがた
 嫁いだ娘さんが置いていった亀であろうか。。
 長生きする亀 餌を頂戴と水槽のガラスを前足でかきながら
 催促しているようだ。
☆ビオトープに生まれ出でたるあきあかねガラスのビルの谷へとびゆく
 ビルの屋上に設けられたビオトープであろうか。
 ビオトープ生まれの蜻蛉がつぎつぎにビル街へ飛び立ってゆく。
☆萎えやすき一人の時間卵白を角の立つまで泡立ててゆく
 
 些細なことがきっかけで萎縮することがある。
 卵白を泡立てることに集中して気をまぎらわせているよう。
☆つぎつぎと部屋の明かりを点しゆきひとつ点らぬわが胸の中
 一人住まい かつては夫が居て、子供達が居た。
 今は独り 灯りを点しても、心の灯りは点灯しない。
 寂しさが伝わってくる。
☆テーブルにひとつ空きたる席ありて亡き夫の名札置かれていたり
 娘の披露宴であろうか
 亡き夫も同席して、娘の晴れの舞台を喜んでいることであろう。
☆湯のなかでほうとため息ついているこの子生まれて一週間目
 湯の中でばあばの手に身を任せている赤子
 赤子のため息のほうが効いている
☆あやとりのはしごを作る五人の手うすくてまるい爪を皆持つ
 親族五人でのあやとり
 同じ形態の爪に着目したのが効果的
☆捨てきれぬ夫のシャツ着て草ひけば掌に触れあおき飛蝗とびさる
 
 草取りの手に触れたのは亡き夫の化身のバッタだったのかも 
 
☆新聞屋の置きゆきたるカサブランカが向こう三軒両隣に咲く
 同じ新聞をとっているご近所さん宅に同じように新聞屋から
 贈られたカサブランカ
 同時に咲いて芳香を放っている。
☆洗いあげし大鍋小鍋を卓に伏せしんと静かな冬の夜となる
 娘一家が去った夜の静けさを上手くとらえている。
☆どっと来て帰りゆきたる娘らの家族がのこす日向のにおい
 庭遊びをした孫達が残した日向の匂い
 とらえどころが上手い
 どっと来てが面白い
どの歌も優しさに満ちていて読みやすかった。
作者の優しい心を反映しているようである。
気負いなく、自然に詠んでいるように思わせる力量を感じた。
勉強させていただきました。