真夜中でした。
寝室の窓の外から声が聞こえたのです。
「あー」に濁点を付けたような音で、細く高い声でした。
気になってカーテンの隙間から覗いてみると、夜の街灯の下を二匹のキツネが駆けていきました。
キツネってこんな鳴き声なのか、とあまり気にかけずにベッドに戻り、うとうとし始めたとき、
またあの声が聞こえたのです。
先ほどの二匹が去っていったのとは逆の方向から、ずっと。鳴き声は同じ場所から、5分程続いていました。
初めの「あー」より澄んでいて、その分怒気の抜けた、むしろ切ない声。
だんだんとそれが私には、「えーん」に聞こえてきたのです。
キツネ妹「(昨日こっそり聞いちゃった!お兄ちゃんたちの作戦。出発するとしたらそろそろね。”森の外”…どんなところかなあ…。二人だけ先に探検しちゃうなんてずるい!絶対あたしも付いていってやるんだから!でもどうせ反対されるから、こっそりね♡)」
キツネ1「おい、いるか」
キツネ2「ああ。誰にも見られていないな?」
キツネ1「当然だ。お前こそ、準備はいいか?」
キツネ2「ばっちりさ。妹も母さんも熟睡していたよ。何かあったときのために、手紙も置いてきた」
キツネ1「そうか…お前とお前の家族に神のご加護のあらんことを願うよ」
キツネ2「…へへ。大げさだよな」
キツネ1「いや、当然の覚悟だよ。さあ、行こう」
キツネ2「ああ、行こう!」
キツネ妹「(ふふふ…やっぱりお兄ちゃんたち全然気づいてない。気配を消すことに関しては自信あるのよねー!さて、”森の外”へ尾行続行!)」
キツネ1「ふう。けっこう来たな」
キツネ2「でも意外と静かだな」
キツネ1「道路にいるモンスターを見たときは驚いたが、深夜は寝ていて動かないみたいだしな」
キツネ2「目も光っていないし、ぴくりともしないもんな」
キツネ1「!!…匂わないか」
キツネ2「ああ!俺も感じた。近くに何か…」
キツネ1「…あの袋じゃないか?」
キツネ2「そうだ!この中に食べ物がある!やったぞー!」
キツネ1「おい!大きな声を出すな!何がいるかわからないんだ」
キツネ2「…す、すまない。気をつけるよ」
キツネ1「それにしてもこの林は瀕死だな。木が左右対称に一本ずつ、あとはこの正面の角張った岩につるが巻き付いているくらいで、まるで緑がない」
キツネ2「本当だな。巨大な四角岩ばかりで、地面も黒く干上がって冷たいし、たまに茂みがあってもまるで奥行きがない。不毛の地だ」
キツネ1「まあ、そんな中今夜はこの袋の中身にありつけて良かった。」
キツネ2「そうだな、袋がもろくて助かった」
キツネ1「…だがこの辺りには長くいすぎた。移動しよう」
キツネ2「同感だ。動こう」
キツネ妹「(お兄ちゃんたち、いま何かを見つけていたわよね?どれどれ…ってもうないじゃない!全く意地汚いんだから!いいなあ、あたしもせっかくだから外のものを少しくらい味わいたいなあ…
!!…これ、こっちの奥にあるの、りんごだ!お兄ちゃんたち気づかなかったの?あんなに慌てて戻っちゃって。表の袋にばかり気をとられていたのね。今日一番の収穫よ!お兄ちゃんたちのよりもずっと良いわ、ふふ。
それでは、いただきまーす♡)」
「がちゃん」
キツネ妹「(!!…何?いきなり、黒い棒に囲まれてる…痛い!だめだ、固くて噛み切れない。重くて、びくともしない…外に、出られない…!ああ、どうしよう…帰れないよ、お母さん、お兄ちゃん…)」
キツネ妹「た、助けてー!助けてください!誰か…お兄ちゃん、お兄ちゃーん!助けてー!えーん、えーん、えーん…」
みたいなことを考えました。
今回はちょっと長くなっちゃった。夜中だったのに。
妹ギツネはあのあとどうなったのでしょう。
心配です。