ずっと笑顔でヘラヘラしている奴がいる。話す時や、歩いている時、激しく運動している時も。話している時っていうのは面白い話をして笑顔になるのではなくて、どうでもいい話の時。例えば、雨降ってる?みたいに聞かれた時。そういう何にも面白くないような時にでも口角はずっと上がり続け、肩を震わせている、そういう奴がいる。
彼は今日の授業終わり、私とは違う学科棟の中庭で、お昼を食べていた。大学のコンビニエンスストアで買った五五〇円の満腹のり弁当。彼の薄い腹のどこに収まるのだろうかというぐらい大きな弁当を片手で持ち、原っぱの上で三角座りをしながら、誰かと話して笑い続けている。途中で重くなったのか三角の上に弁当を置いて一休みする。手で持ち続けられないくらい重いなら、食べることなど出来ないんじゃないかと思うが、笑い続ける顔が僅かに「美味しい」と語っていたもんだから、食べたらいいと思ったりする。小刻みに上下を繰り返す肩は薄い胸とは違って大きく、シャツにくっついた筋肉がありありと目に見える。震えているのではなく、何かの運動をずっと繰り返しているみたいで、肩の動きはずっと見ていられる。
お次の彼は夕方の授業終わり、部活へと向かう。意外にも彼はバレーボール部に所属していて、休んだことはほとんどない。細い腕に白い脚で、ちょろちょろと走り回り、飛び跳ねる。笑顔で、楽しそうに飛び続ける月のうさぎのように、はねる、はねる。練習の最後にある一試合だけは笑顔が消える。ボールを見つめて、追って、手で飛んできたボールを押さえる。その短な時間だけ、笑顔が消える。後の時間は口角を上げ続け、他の人に怒られようが、ヤジを飛ばされようが、笑顔は崩れない。
そんな彼と出会ったのは去年の春であって、バレーボールを片手ににやにやとし続ける彼の横で、挨拶をしたことを覚えている。
「大阪出身で、高校はこの辺です。高校も弓道部のマネージャーをしていました。」
緊張して口が乾いている私の横で、なんの気配も感じさせないような存在感と、それに反して曲がりすぎた背骨が体をふち取って浮かび上がらせる。話始めても猫背の位置は変わらないままで、その状態で上下に揺れる。足は常に忙しなく、右足は左へ、左足は右へと素早い動きを見せる。そうやって動き続ける体なのか、脚は速く、球が遠くに飛んで行ってもいつの間にか追いついている。なんだこいつきもい、が第一印象なのは誰が見ても明白だった。
いつも通り夜九時に、体育館から出ていく。お疲れさーす、と弛んだ声が次々と、誰に対してかもわからない声たちが静かな体育館を濡らす。両手でしか開かないようなガラスドアを押して外に出ると、秋の埃っぽい匂いが鼻を覆ってくる。口から勢いよく空気を吸い込んだところで、後ろから気持ち悪い声で肩を叩かれた。
「お疲れ様で〜す。明日の飲み会、結局行くんすか?」
話しかけられたのなんて入学してから初めてのことで、もちろん触られたのなんて初めてで、急に身体の奥から隅へ全ての神経が動いたみたいで、お腹が鳴った。
つづく...