花言葉:「期待」「希望」「集中力」
 英名はゴールデンベル(Golden Bell)。春の訪れを告げるように、枝いっぱいに黄色い花を咲かせることから、

 その名で親しまれている。

 レンギョウは、まだ寒さの残る早春に、葉よりも先に花を咲かせる。
 準備が整ってから咲くのではない。
 咲きながら、春を呼ぶ花だ。


 花詩の店先に、今年最初のレンギョウを並べたのは、成人の日が近づいた頃だった。
 灰色の空の下で、その黄色だけがやけに眩しく見える。

「……あ、もうレンギョウ出たんですね」

 そう声をかけたのは、アルバイトの萌音だった。
 マフラーを外しながら、店先の鉢を覗き込む。

「ええ。早い子は、もう準備万端みたいです」

 高瀬は笑って答え、枝先に指を伸ばす。
 小さな鈴のような花が、いくつも連なっている。

「ゴールデンベル、でしたっけ。名前、可愛いですよね」

「ベルっていうより……呼び鈴、かな。
 春、来てますよーって」

 萌音はくすっと笑った。

 その時、引き戸が静かに開いた。


 入ってきたのは、二十歳前後の青年だった。
 黒いコートに、少し大きめのリュック。
 視線が定まらず、花に近づいては、また一歩引く。

「いらっしゃいませ」

 高瀬が声をかけると、青年は一瞬、肩を強張らせてから、深く頭を下げた。

「あの……花、欲しくて」

「はい。どんなご用件でしょう」

「……その、成人式で。
 母に、何か……」

 言葉が途中で途切れる。
 それ以上、うまく説明できない様子だった。

 高瀬は、急かさない。
 代わりに、青年の視線の先を辿った。

 そこにあったのは、レンギョウだった。

「黄色い花が、気になりますか」

「……はい。
 なんか、元気で……。
 でも、派手すぎない感じで」

 青年は、照れたように笑った。


「レンギョウは、一月十日の誕生花なんですよ」

「え……今日、です」

 青年の目が、少し見開かれる。

「花言葉は『期待』『希望』『集中力』。
 英語では、ゴールデンベル。
 春を呼ぶ鐘、ですね」

 青年は、花を見つめたまま、黙り込んだ。

「……期待、か」

 ぽつりと呟く。

「お母さまは、どんな方ですか」

「……ずっと、待ってた人です」

 青年は、少し間を置いて続けた。

「俺、進路も決まらなくて。
 浪人して、失敗して、
 成人式なのに、胸張れること一つもなくて」

 声は低く、けれど不思議と落ち着いていた。

「でも母は、
 “大丈夫、あんたはちゃんと考えてる”って……」

 高瀬は、レンギョウの枝を一本、そっと手に取った。

「この花は、準備が整ったから咲くわけじゃありません。
 寒さの中でも、先に咲く。
 咲きながら、春を待つ花です」

 青年は、ゆっくりと顔を上げた。

「……待つ側の花、なんですね」

「ええ。
 でも、待つだけじゃない。
 “期待している”という意思を、形にしている花です」


 包み終えたレンギョウを、青年は大事そうに受け取った。

「これ……母、喜びますかね」

「きっと。
 “待ってた時間が、間違いじゃなかった”って」

 青年は、しばらく黙ってから、深く頭を下げた。

「ありがとうございます」

 扉が閉まると、店内に静けさが戻った。


「……集中力、って花言葉も、いいですね」

 萌音が言った。

「迷ってる時ほど、実は一番集中してることもあります」

「決まってない=何もしてない、じゃないですもんね」

「ええ。
 心が一つの場所から動かない、という意味でもありますから」

 萌音は、レンギョウを見て、少し考え込む。

「春って、
 もう来てる人と、これから来る人が混ざる季節ですね」

「だから、この花が似合う」

 高瀬は、店先の鉢を陽の当たる位置に移した。


 夕方。
 西日を浴びたレンギョウは、本当に鈴のように光って見えた。

 まだ鳴ってはいない。
 けれど、確かに――

 誰かの未来を呼ぶ音が、そこにある。


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 レンギョウ

 花言葉「期待」「希望」「集中力」

 

 

 レンギョウは、何かが始まる前に咲く花です。
 結果でも、完成でもなく、**「待ちながら信じる時間」**そのもの。
 迷っているあなたも、立ち止まっているあなたも、
 もう春の入口に立っているのかもしれません。

 ゴールデンベルは、静かに、でも確かに鳴っています。