ヒロスムポピーは、やわらかな薄紙のような花びらを持つポピーの一種です。
風が吹くと、光を透かしながら揺れ、まるで感情そのものが揺れているように見える花。
花言葉の「七色の愛」は、その多彩な花色に由来するといわれています。
赤やピンク、白、オレンジ――一つの“愛”にも、実はさまざまな色合いがあることを教えてくれる花です。
「慰め」「感謝」という言葉もまた、
そっと寄り添うようなその姿から生まれました。
今日は、そんなヒロスムポピーのお話を。
七色の愛
二月の終わり。
空気はまだ冷たいが、光だけは少しやわらいできた午後。
花詩の扉が静かに開いた。
「いらっしゃいませ」
高瀬が顔を上げると、
四十代半ばほどの女性が、少し緊張したような表情で立っていた。
コートの袖口を、ぎゅっと握っている。
「贈り物、なんですが……」
その声は、迷いを含んでいた。
萌音がそっと近づき、
「どんなご用途ですか?」と柔らかく尋ねる。
女性は一瞬視線を落とし、そして言った。
「……お見舞いです。妹に」
入院中なのだという。
命に別状はないが、しばらく動けないらしい。
「昔から、妹のほうが強くて。
私はいつも、守られてばかりでした」
そう言って、小さく笑う。
「だから……今度は私が、何かしてあげたくて」
高瀬はゆっくりとうなずいた。
「慰める、というより」
女性は続ける。
「ありがとう、って伝えたいんです」
店内の奥、窓辺に飾ってあったヒロスムポピーが、
光を透かして揺れていた。
高瀬はその花を手に取り、女性の前へ運ぶ。
「ヒロスムポピーです。
二月二十三日の誕生花でもあります」
女性は、はっとしたように目を上げた。
「妹の誕生日です」
萌音が、思わず小さく声をあげる。
高瀬は静かに微笑んだ。
「花言葉は『七色の愛』『慰め』『感謝』」
女性の目が、少し潤む。
「七色の愛、ですか」
「愛って、ひとつの形だけじゃないんですよね。
心配するのも、叱るのも、距離を置くのも、
全部、色が違うだけで」
高瀬の声は穏やかだった。
「きっと、お姉さんの“ありがとう”も、
妹さんにとっては大切な色です」
女性は、長い間、ポピーを見つめていた。
薄い花びらが、店内の暖かな空気に揺れる。
「私、ずっと甘えていたんです」
ぽつり、と言う。
「妹は、仕事も家のことも、
全部ちゃんとしていて。
私は……少し、羨ましかった」
その言葉には、ほんのわずかな悔しさが混じっていた。
「でも今、病室で眠っている姿を見たら、
ただ、ありがとうって思ったんです」
萌音は、胸の奥がきゅっとなるのを感じた。
高瀬は、ヒロスムポピーを中心に、
淡いグリーンと白の花を合わせていく。
「慰め、という花言葉は」
「はい」
「悲しみを消す、という意味ではなくて。
そばにいる、という意味かもしれません」
女性はゆっくりとうなずいた。
「私、ちゃんと伝えます」
包み終えた花束は、柔らかな春の光のようだった。
赤とピンクのポピーが、ささやくように揺れている。
会計を終え、女性が扉へ向かう。
「ありがとうございました」
その声は、来たときよりも少しだけ軽い。
扉が閉まったあと、萌音がぽつりと言った。
「七色の愛、っていいですね」
高瀬は棚を整えながら答える。
「愛は、単色じゃないほうが、きれいですからね」
「店長の愛は、何色ですか?」
いたずらっぽく尋ねると、高瀬は少し困ったように笑った。
「透明、でしょうか」
「ずるいです」
二人の笑い声が、静かな店内に溶けた。
窓辺のヒロスムポピーが、
またひとつ、小さく揺れる。
きっと今ごろ、
病室の窓辺でも、同じように揺れているのだろう。
七色の愛は、
派手ではない。
けれど、
光に当たるたび、違う色を見せる。
それは、
長い時間の中で、少しずつ重なってきた想いの色。
「ありがとう」と言えるその瞬間、
愛はやわらかな春の色になる。
🌿 本日ご紹介したお花はこちら 🌿
ヒロスムポピー
花言葉「七色の愛」「慰め」「感謝」
ヒロスムポピーの花言葉
「七色の愛」「慰め」「感謝」。
愛は一色ではなく、
時に羨み、時に支え、時に離れながらも、
それでも残る想いの積み重ね。
誰かに「ありがとう」と伝えたくなったとき、
ヒロスムポピーは、きっとそっと揺れてくれるでしょう。
あなたの愛は、今、何色ですか。