バルセロナは18歳以下の選手の獲得についてFIFA（国際サッカー連盟）の規約に違反したとして2015年1月と2015年の夏の選手補強を禁止されていますが、12月30日にスポーツ裁判所（TAS）がバルセロナの下部組織に所属する選手の公式戦出場を認めないFIFAの決定を支持したので、このことについて状況をまとめたいと思います。
元々、騒動の発端はある人物がバルセロナに所属する韓国籍のリ選手がFIFAの規定に違反しているとFIFAに告発したことです。FIFAはこの人物の名前を非公表にしています。この段階では11歳でバルセロナに移籍した日本人の久保健英選手は12-18歳を対象としたFIFAの国際移籍の規約に抵触しないと見られていました。
しかしここからFIFAはバルセロナに所属する18歳以下の全選手を対象に各状況を精査し始め、状況が一変しています。現在、久保選手を含めて9選手が公式戦出場を禁止されていますが、今回のスポーツ裁判所の決定を受けて地元紙ムンド・デポルティーボは久保選手を心配する記事を掲載しています。
「タケと家族の我慢は限界だ」12月31日のムンド・デポルティーボ
まずここで日本ではあまり報道されていないFIFAが定める未成年の選手の移籍に関する規約をおさらいします。
基本概念「海外移籍は18歳以降のものだけを認める」
但し以下の3つのケースは例外とする。
（１）両親が、子供が移籍するクラブの所在国に子供の移籍以外の目的で転居した場合
（２）移籍がEU（欧州連合）内で行われ、且つ、選手が16-18歳の場合
（３）選手が越境してクラブに通うケースで、国境線から自宅とクラブがそれぞれ50km内に所在する場合
日本人選手のスペイン移籍の場合、（１）だけが考慮すべき条項となります。そして久保選手はこの例外には当てはまらない。ただ、もう1つ重要な点は、欧州の多くのクラブがこのFIFAの規定に抵触する形で18歳以下の選手を抱えているという点です。要するに、このFIFAの規約は新しいもので現在進行形で制度が整えられている途中であり、バルセロナだけが違反しているわけではないということなのです。
バルセロナからすれば「他のクラブはどうなんだ？」となるわけですが、取り締まる側のFIFAは「他のクラブの事よりも、まずは君たちが規約に違反しているじゃないか」となるわけです。大勢で信号違反をして、一人だけが警官に捕まった形です。
今回の件でバルセロナは、
FIFAに控訴 → 棄却
スポーツ裁判所に提訴 → 棄却
と訴えていますが、今度はスイスの裁判所に制裁の取り消しを申し立てるようです。欧州の政治、司法の舞台では、最初に下された決定が多くの機関で審議された結果、当初の決定から大分減刑される、もしくは処分が取り消される事があるので、今回の状況がどうなるのかは誰にもわかりません。
一方で選手の国籍からこの状況を見てみましょう。EU圏内の選手の制裁が解けるのが16歳で、それ以外の選手は18歳です。バルセロナには韓国籍の選手が3人いますが、現在17歳のパク選手は今年の3月17日に18歳になり、ヤン選手は来年の4月、リ選手は来年の1月に公式戦出場が可能となります。
しかしジュニアユースに所属する久保選手が18歳になるのは2019年6月なので4年と数か月は制裁の影響を受けることになります。
また、「バルセロナのトップチームに昇格できるか？」という視点で分析することも重要です。バルセロナは15歳までは学年間の飛び級を行いません。これは体格の違う選手との接触で負傷することを避けるためです。しかし16歳以降はユースAとBの間の飛び級はもちろん、優秀な選手は大人の2軍であるバルセロナBにも引き上げられます。そして現在トップチームで活躍している下部組織出身の選手たちは大半がこの過程を辿っており、18歳に満たない年齢でトップチームデビューを飾っている選手もいるのです。
そうなると「バルセロナのトップチームの選手」を目指す場合、17-18歳でユースに所属していること自体が目標への最初のチャンスを逃していることになります。そこで重要になるのが16-17歳までに飛び級で上のカテゴリーに引き上げられる選手となることです。
そして最後に、バルセロナの下部組織はバルセロナのスタイルを実践できるように元々優秀な選手の成長を方向づけしているという点を理解する必要があります。要するにバルセロナで育成されることが他クラブに活躍の場を移す場合に全てがプラスに働くわけではないということ。選手は自分の将来像を冷静に分析し、新天地に移るべきかどうかを決断しなくてはいけないのです。
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